翻刻
わきまへず我 慢(まん)外道(げたう)へ落(をち)入り悪 趣(しゆ)に迷(まよ)ひ我
を恨(うら)みんは是非(せひ)なし幼弱(ようじやく)の伜に鬱憤(うつふん)を晴(はら)さ
んとは比興(ひけう)至極(しこく)の至りなりと大きに嘲(あさけ)り佐介か
いたみを介抱(かいほう)す夜明(よあけ)けれは医(ゐ)師をまねき薬を
つけなとして痛(いたみ)を療治(りやうち)す母は夜すからあんじ
あかして未明(みめい)に人を遣し此事を聞てわれも走(はし)り
きまほしう思へとかなはて迎(むか)ひの人をやりて呼(よひ)
よせかへらぬくり言は人聞もいかゝなれと女のならひ
さま〳〵に歎(なけ)きけるも理(ことは)りかないたみは日を経て
快気(くはいき)したれとも首(くび)は後のかたへねちれて片輪(かたわ)
つきたるをさま〳〵にあつかへど元のことくにならず此
子も口 惜(をし)しき事に思ひけれども甲斐(かひ)なし首(くび)は
右のかたへねぢむきたれども健(すこやか)になりぬれは祖父(ちゐ)
に向(むか)ひ又父がもとへ行んといへど此度は人々あな
がちにいさめ止(とゝめ)て更(さら)にゆるさずかくて1とせ斗り
ありて佐介人々にさま〳〵断いひて漸(やう〳〵)に父か許(もと)
へ帰り来りて父ともろ共山伏に向ひゐたり此度は
死霊(しれう)も手をさへず佐助はかく片輪(かたわ)づきたる
事を不斜(なのめならず)口惜(くちおしう)思ひけれど死霊にうらみ云(いふ)
へくもあらず只三人にらみあふてうち過(すご)すのみや