翻刻
難有(ありかたき)恵(めぐみ)の程をかしこまり思ふにもおさよか行衛
を人しほしたひ思へとせんかたなくてしたしき人の
媒(なかだち)に心 行(ゆく)べき事ありて母もげにと心得て主水(もんど)
にすゝむれは心はそまねど母のはからひに任(まか)せぬ
しかはあれど我(われ)高砂の別(わか)るゝ時よしや年 経(へ)
てみちに親(をや)〳〵の心にたかふと外の女は見まじと
いへるにさよが六つの年何 心(こゝろ)なく顔うち見てうな
づきし面影(おもかげ)年来ふれどさらに忘(わす)れずもし
此世になき人となるとても異(ほかの)女にま見へるは
こけの下にて思はんこともはづかしなとおもひ
つゝくるもいとやさしきこゝろぞかし時しも神無(かみなし)月の
頃かれ野ゝ気色(けしき)見んとてそこはかとなくうか
れ行に例(れい)の山嵐に木(こ)の葉 散(ちり)つゝ谷河の流(なか)
れは紅葉(もみぢ)をそのまゝに下〳〵おもしろき日も
あやに詠(ながめ)ゐたるにしがらみにかゝりてとゞまりたる
一葉に文字の書(かき)たるあり取上みれは
浅(あさ)ぢゆのかき〳〵になるおもひには
なみだの露(つゆ)そおきところなき
いとうつくしき女のふての跡(て)也いかなる人のす
さひ成らんあやしさよ実(げに)や晋(しん)の干宝(かんほう)唐(とう)の