翻刻
段九成(だんきうせい)が事も偽(いつわり)ならめとのみ思ひしにまのあ
たりかゝる事はいまた聞ず何となく此葉の跡(あと)に
心とまりてやゝ思ひめぐらすにしゐてうちすてかた
くわれも又あたりの木(こ)の葉にかくこそ【?】
あし引の山路のおくをわけかねて
身は谷河にしつみはてなん
と思ひつゝけける侭(まゝ)に書て同ながれにうち入れ
て行(ゆき)方を見やりて立る【?】もはてしなきおりちぞ
かしとかくするに日は西山(せいざん)に陰(かげ)おちて田面(たのも)の
賎(しづ)もいさなひかへり遺愛寺(いあいじ)の入相におどろき
て家路(いへぢ)に帰りてもともし火近(ちか)くたて彼(かの)木の葉(は)
を詠(なか)め入て寝(ね)もやらず思ひ廻(まは)すに彼(かの)貫之(つらゆき)の遍(へん)
照僧正(じやうそうちやう)の歌(うた)を絵(ゑ)に書(かけ)る女を見ていたづらに心
をうこかすかことしと難(なん)じ給ひぬとかそれは筆(ふで)
に任(まか)せ心を入て書なしたるなれは形(かたち)も似(に)たるも
あらんかと思ふ者から心をかけまじき者にあらず是(これ)
は聞も見んせぬ人の筆の跡(あと)をかくせちにおもひ
入りしはあるまじき事と思ひすつれどあやにく【あやふく?】
に恋(こひ)しくやゝ夜(よ)も更(ふけ)行に村(むら)鳥(とり)のねぐらあら
そふ声(こゑ)のしるく瀟々(しやう〳〵)たる雨(あめ)の窓(まど)をうつ音(をと)に