翻刻
いとゞ目もあはずおさよが事も打まぜて思ふに
とりもしば〳〵音信(をとづれ)て明(あけ)なんとする頃にあま戸(と)
押(をし)ひらき明かたの空(そら)を詠(なかむ)れは四方(よも)の梢(こすへ)もまば
らなる中に常盤木(ときわぎ)立まじりたる明ぐれの
さましのゝめの烏(からす)もわれを思ふかとあはれに
聞(きゝ)なし漸(やう〳〵)下部(しもべ)も起出(をきいて)物さはがしく日もさしあ
がりぬれは母も寝屋を立(たち)出給へは我(われ)も今 起(をき)たる
さまに手水(てうづ)などつかひ何心もなきふりしてゐれと
心はやすからずされど昼(ひる)は事しげきにおのづから
まぎるれどよる〳〵は忍(しの)びかたきにや四五日
過て又 彼(かの)谷河(たにかわ)の辺(ほとり)りへ行きて見るに過しやうに
水の色も見へぬ程(ほど)にはあらねとたえ〳〵なる
木(こ)の葉(は)の筏(いかだ)なりしたるさまはこほ【?】見所有て
いと興(けふ)ふりし又もものかきたる木の葉(は)ながれ
ぬるやと目まぜもせず詠(なかめ)給るにさらにあらずもし
やと流(なが)るゝ木の葉をかきよせ〳〵取上るにみすの
したゝり衣(きぬ)にかゝりてうへ下通(とふ)りはへもひた〳〵
する程(ほと)にしれとぬれけるもふかきかたにおもひ
よそへられといとおかしあまり思ひわひて
はかなさを何(なに)によそへん行水(ゆくみず)の