翻刻
を聞(きゝゐ)て此年月 露(つゆ)わすれざりし面影(おもかげ)思ひ合すれは
こよなうねびまさりて見所あるもその人にあらずと
思ひしゆへに心にもそまて過いる月日もくやしく
かの谷川にてひろひ得し木の葉(は)取出し有しさま
又おさよならては外(ほか)の女に契(ちぎ)らじと思ひて新枕(にゐまくら)に
■今迄人め斗の妹背(いもせ)にて更(さら)に下紐(したひも)とかざりし
などかたれはおしがも亦(また)懐(ふところ)より同じ木の葉(は)とり
出てさればとよわらはは養(やしな)ひ親(をや)の元(もと)より国司(こくし)
へ宮仕(みやつかひ)に出しが此二とせ已然(いせん)より養(やしな)ひ親(をや)の館(たち)へ
帰り住(す)みてもたゞあけくれ御 行( く)衛の恋(こひ)しさたへ
かたく心も空(そら)にあこがれ前栽(せんさい)のやり水に谷(たに)河
せき入たる辺(ほとり)に詠(ながめ)ゐしに折(をり)ふし木の葉の落(をち)たる
を取て心にうかみけるまゝつたなきことの葉を
河水にうかべ侍(はべり)りしに亦の日用の事ありて此谷
川の下を通(とふ)りしに木の葉に何(なに)やらん書(かき)たる
がながれたゞよひけれはもしやきのふの我くち
すさびならんと思ひひろひ取て見れはさにはあ
らで外の手(て)して書たるものゆへふしぎに思ひ
世にはわがごとく物思ふ人もあるやらんよし〳〵前(ぜん)
世(せ)のえにしつたなくおさなき時の人に逢(あふ)事かたく