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てぞ出たりける。河津近〳〵と寄て。俣野がちからをはからん
が為に一/推(をし)しておもひけるは。兼々聞しには/似(に)ぬものか
今日/多(おほ)くの人の/負(まけ)たるは。酒に/酔(ゑひ)たる故なるべし。されども此男
は八箇国に名を/呼(よば)れ。一年/都(みやこ)におゐて取けれ共。彼に勝
たるものなしとて。相撲/無双(ぶそう)の名を得たる者なれば/容易(たやすく)は
/投(なげ)がたしと思ひ。二三度もゑいや〳〵と/推(をし)合けるが。河津なをも
其手をはなたず。向へつよく/推(をし)ければ。各/並居(なみゐ)たる衆中へ
つら押入。/膝(ひざ)を/突(つか)せて入にける。俣野は只も入らず。/爰成木(こゝなるき)の
/根(ね)に/踢(つまづい)てこそ。/不覚(ふかく)の/負(まけ)をしたるに。今一番取らんといひ
ければ/兄(あに)の景親走出て/傍(あたり)を見/廻(まは)し。/実々(けに〳〵)是に木の根有
俣野かまことの負にあらず。/真中(まんなか)にて/尋常(じんじやう)に/勝負(しやうぶ)した
まへ河津負といひければ。伊東是を聞て。いや〳〵河津も/膝(ひざ)が
少しながれて見へ候ぞ。只時の/興(けう)なれば。/互(たかい)の/意恨(いこん)も有べから
ず。今一番取て負よといはれける間。河津辞するにも及
ばすして出たりければ。俣野は手相もせずして。向さまに
や当ん。/横(よこ)さまにや。/繋倒(かけなじ)べきと。つと/寄(よる)所を。河津は前後
相撲は。是が初めなれば何の手もなく俣野か上帯むづとつかん
で前へひき寄。/妻手(めて)へ廻て。目より高く。差揚ければ俣野