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翻刻
其とき頼朝卿物語し給ひてそも〳〵足下に所望の事
誰を申さんとおもふが宣て/不詳(ふしやう)に候はん。為にやまんも/忍(しの)び
がたしとおもひわづらひたりと/宣(のたまひ)ければ。重忠ちと/居(い)な
をりて。君の御大事。何にて候とも。いかで子細を申候はんと云
たるに。大将/入輿(じゆけう)し給ひて。その庭に長居めが参りて。東八ヶ
国にならびなしと。/自称(じしやう)して。/貴殿(きでん)と手あひを望みする
間。ねたましく覚ゆれば。頼朝なりとも出てこゝろみんや
とおもへとも。とりわき重忠をのぞみ申ぞこゝろみ給へと
のたまへば。重忠/存外(ぞんぐはい)げにおもひて。かしこまりていふ事なし
大将さればこそ。これは我ながらも非愛の事にて候。但わが所
望此事に有とのたまうとき、重忠閑所に行て。くゝりすへ。/鳥(ゑ)
/帽子(ぼし)かけて出にけり。長居は庭の床にしりかけて居けるが。
つと立て/犢鼻(ふどし)つきてねり出たる形勢。/金剛力士(こんがうりきし)のあらはれ
たるかと見へければ。畠山もいかゞぞとおぼへける。さてよせ合
せたるけるに。長居畠山がこくひをつよくうつて/袴(はかま)の/前(まへ)ごし
をとらんとしけるを。畠山長居が左右の肩をひしとおさへて。
ちかづけず。しばらく/程(ほど)へければ/梶原景時(かぢはらかげとき)いまはことがら御覧
さふらひぬ。さやうにてやおかせさうらはんと申ければ頼朝いか