← 前のページ
ページ 58 / 136
次のページ →
翻刻
/大江広元朝臣(おゝゑひろもとあそん)献じたり。義秀が兄/常盛(つねもり)をはじめ。諸人
こひのぞむといへども。たまはらざりしに。今日義秀にたま
はりぬ。是を見て義秀か兄和田兵衛常盛すゝみ出て申
けるは。それがし/水練(すゐれん)は義秀に及ずばとも相撲におゐては
/長兄(ちやうけい)のしるし候べし。ねがはくは御馬を兄弟のなかにをかれ。
すまふを御覧あつて。其勝負について。くださるべしといふ。
頼家卿/興(けう)に入たまひ。御舟をきしにつけたまひ。小坂太郎か前
の庭にて。是をあはせたり。二人ともに/衣装(いしゃう)ぬぎてたち
向ふ。其/体力士(ていりきし)にことならず取あふこと。たび〳〵なり。ふむ所
の地/震動(しんどう)するがごとし。まことに/希代(きだい)の見物なり。しかれ共
義秀/力(ちから)まさりなれば。常盛あやうく見へたり。/江間(ゑま)小四郎。
あまりに感じて座をたち。両人の。/間(あいだ)を立へたてらる。その時
常盛はだかながら。くだんの馬にひたとのり。/鞭(むち)をあげてにげ行
たり。義秀はなはだ/後悔(こうくはい)す。見るものわらはずといふ事なし
/賀茂能久(かもよしひさ)天竺冠者(てんぢくくはんじや)相撲の事
人皇八十二代/後鳥羽院(ごとばのゐん)の御宇に。伊豫国/大寺(おうてら)の/嶋(しま)といふ所に。
天竺冠者といふ/希代(きだい)の/幻術者(げんじゅつしや)。/大力(だいりき)の聞へ有ければ。其比都に
加茂の/神主能久(かふぬしよしひさ)相撲の聞へあり。是にあはせられけるに。能久