← 前のページ
ページ 62 / 136
次のページ →
翻刻
あれば。右承り候と又つと立て。十分にたゝへたる水を少しも
こぼれざるやうに。/居直(すへなを)したりしかば入道大にかんじたまへり。又
或とき都より/雷(いかづち)。/稲妻(いなづま)。/大嵐(おゝあらし)。/辻風(つじかぜ)といふ相撲取ども。下向し
豊後/府内(ふない)に於て/勧進(くはんじん)相撲を/興行(こうぎやう)せしに。彼等四人に/勝者(かつもの)
なし。其よりして。同国/臼杵(うすき)へ来りしに。其比大隅守も臼杵の宿
所に居たりしに。彼/雷(いかづち)といふ関相撲。其外大/力量(りきりやう)の者ども七八人
或人をたのみ。大隅守か/力業(ちからわざ)を望みけり。大隅守もきやつ/等(ら)が
望むがやさきに。一手取ばやとおもひけるが。先此ものどもを
少しおびやかさんとおもひ。宿所に/招(まね)きよせて。彼者共に
向ひ。扨〳〵おもひ寄て/能(よく)も来られつわもの哉。少し細工に
/仕(し)かりたり。/暫(しばら)くそれに待たまへといひ/捨(すて)。大なる麻の角を/数多(あまた)
取よせ。ひし〳〵とつまみ/砕(くだ)き。/盥(たらい)の水に/投(なげ)入て。其後彼者共
と/種々(しゆ〴〵)の/雑談(そうだん)におよぶ。/雷(いかづち)以下の者共は。是をば少しも見ぬかほ
にて。大隅殿の御勇力はかねて承りおよび候。御力量のほどを
そく御見せ候へといふ。いかでか聞は及ばざるべき。去ながら力の
程を見せ申さんといへば此者共悦び。しからば相撲を一手仕ん
と望む。大隅守聞て/我幼少(われようしやう)より。/兵術(へいじゆつ)はぐくみたれども。相撲に於
ては/知(し)らず。各々おしへられよといふけるに/既(すで)に身ごしらへをし