翻刻
坡谷軒(はこくけん)共/殿(との)とも呼(よび)給へかしとて。以之/外(ほか)の不機嫌(ぶきけん)
なれば。竹(ちく)三郎/手持(てもち)あしくして。こそ〳〵と私宅(したく)
さして逃帰(にげかへ)りけり
第四 竹(ちく)三郎/法体(ほつたい)之事
数(かづ)の三の字(じ)へぎの誤(あやまり)
され共/竹(ちく)三郎。思ひ入たる文学(ぶんがく)なれば。此師(このし)をとり
はなさじと。一/心(しん)に思ひこめ。二三日も過(すぎ)ければ。又/坡谷(はこく)の
宅(たく)へ参(まい)り。先日(せんじつ)は始而(はじめて)御/目(め)にかゝり。そこつ成(なる)事を申上。御(こ)
きげんにはさはり候へども。それがはやよき学問(がくもん)に罷成(まかりなり)候
とのべければ。坡谷(はこく)きかれて。其志(そのこゝろざし)こそまことなれ。き
どくにも早々(はや〳〵)来られける物かなとて。心よきあいさつ
なれば。竹(ちく)三郎も案堵(あんと)して昼夜(ちうや)に不(す)_レ限(かぎら)師(し)に
つかふる事。長良(ちやうりやう)【張良】が黄石公(くわうせきこう)にくつをさゝげしよりも
猶(なを)へりくだりて仕へける竹三郎。もとより医学(いかく)の心
がけなれは。程(ほど)なく大成論(たいせいろん)に移(うつ)りて。いまだそよみも
はてざるに。早法躰(はやほつたい)して。十徳を着(ちやく)し。木斎(ほくさい)と名(な)を改(あらため)
師匠(ししやう)に対面有(たいめんあり)し時。坡谷(はこく)申されけるやうはぼくさいとは
不心得(すこゝろへ)/乏(とほし)_レ財(たから)ともきこへ。又/才智(さいち)とほしきともきこゆる
なり。貴坊(きほう)には何と心得(こゝろへ)給ふぞやなどきさいとはとなへ
給はぬそ。木斎/承(うけたまは)り。さん候/我父(わかちゝ)は竹斎(ちくさい)と申て医(い)の
道(みち)下手(へた)にてすりきりなれは。われはそれにひきちがへ
木(き)に竹(たけ)つぎたることく大にかはりて上/手(す)になり。福医(ふくい)