翻刻
て。御/礼(れい)に参(まい)れば。よしがこいの座/敷(しき)へしやうじ。木斎
出(いて)あはれければ。いづみや謹而(つゝしんて)手をつき。誠以(まことにもつて)此度(このたび)は御
影故(かけゆへ)に命ながらへ。二度御目にかゝり申事。珍重(ちんてう)千(せん)
万(ばん)忝存(かたじけなくぞんじ)候と。のべければ。木斎もゑみをふくみ。先以(まづもつて)
貴殿(きでん)の御気/色(しよく)。早速(そうそく)御本ぶく。目/出(て)たうこそ候へ。是は
あまり御/隔心(きやくしん)がましき御/礼(れい)。殊(こと)に御/持参(じさん)。却而(かへつて)痛(いたみ)入
て候。たれぞこいよと云て。手をうてば。目玉之助罷出る
たばこもてこよ。御ちやしんぜよと云とき。いやはやそ
れに及ませぬ。たばこは家名(いへな)のいつみしんでんを懐(くはい)中
しました。ひきちやはくだされませぬと。云所にとなり
のこまんと云。十二三なる娘(むすめ)あそびに来るを頼(たの)みてせんじ
ちやを出す。其内に目玉之すけは。いかの吸物(すいもの)はさみ
さかなの。しらすぼしなど。こしらへ。御/持参(じさん)の御樽(おんたる)之(の)
口をひらきましたとて。大屋よりかりよせたせい
しつのあいづわん。しゆんけいぬりの日光/折敷(おしき)にてはや
すいものを出し。にせまきゑのさかづき。朱(しゆ)ぶたのかん
なべを目玉のすけ持参(じさん)して。いつみやがまへにおけは
先(まづ)木斎さまよりと云。いや御/持参(じさん)じや程に。造酒殿(みきとの)
へと云。とかく御ていしゆさまよりと式台(しきだい)すれは。その
ぎならばとて。上さかづきは。あまりにうすければとて
わきへのけ。下さかづきの。三盃(さんばい)入を取上て。たぶ〳〵と
うけてさらりと不し。われをわすれて。かしらをたゝき