翻刻
覚(おほ)へたまへばこそ。わらをせんじてのませらる。作意(さくい)
の程の/上手(じやうず)さよ。にんじん百/斤(ぎん)千/斤(ぎん)より此御業ぞ大/事(じ)
なれ。命(いのち)たすかる事なれば。薬代(やくだい)おしむ事あら
じと。よろこふとはかきりなし。かゝる所(ところ)に。隣(となり)のかゝ
口(くち)ばやにさし出(い)て。惣(そうじて)るあの木斎さまは。つねにも
わらを薬につかはせゐふぞや。それをいかにと申に。この
正月の年玉に。わらのしべを一寸/程(不と)に/切(きつ)て。三/筋包(すじつゝみ)
て上書(うわかき)に。しびりの薬。つばきにてひたいに付べしと
かきつけして。おれらが方(かた)へもくだされたり。物不_レ入(いら)の
御年玉。なよりの/重宝(てう不う)なりとぞしやべりける。かのわら
を用る事。全(まつたく)木斎が作意(さくい)なら須。稾本(わらほん)と云薬は
頭痛(づつう)によき薬にて。いしや衆常(しゆつ年)に用らる。竹(ちく)斎/蚊(もん)
虻(もう)なる故(ゆへ)に。白人(しらふと)に/医書(いしよ)之かなづけたのみしとき。かう
不んと云もじは。わらの本(もと)と書(かき)ければ。くすりの
名をばしらずしてよみにて則かきし故(ゆへ)。その書(しよ)
物(もつ)。いま今木斎が手にわたり。ふしぎの手/柄(がら)をしたり
けり
第八 和泉屋薬代/持参(じさん)之(の)事
盃(さかづき)ひかへて自慢(じまん)はなし
和泉屋の造酒(みき)之介は。木斎の御/影(かげ)にてあやうき
命をたすかりて。よろこびのあまりに。白銀(はくぎん)十/枚(まい)の
付/台(だい)其外(そのほか)二/種(しゆ)一/荷(か)を送(をく)り。其身も上下を着(ちやく)し