翻刻
又一はいのみて。客(きやく)にさす。いづみやもとより/大(だい)上/戸(こ)にて
三献つゞけてのみ。御家/久敷(ひさしく)御人ときく。いざたしまとん
とて。目玉之助にさす。目玉もそこぬけのまんはちにて
かたじけなしとて。三/盃吞(ばいのむ)。それよりあなたへかへせば
いづみや三/盃(ばい)つゞけてのまんとするが。すへの三ばいめに
つまり。ほしかねて見ゆるとき木斎中をいたさんとて。
是を取てのまれけるが。盃(さかづき)をひかへて。から〳〵わらひ
して申さるは。酒は百薬の長(ちやう)たり。すくるをもつて
毒(どく)とすと云(いふ)事は。何と心得(こゝろへ)ゐふぞ。酒は百薬に
すぐれたる薬なれども。すいさけはとくじやと云事也
すぐるゝがどくしやねに。からくあまきをくれよとの
儀(ぎ)也。しれはくの字(じ)をにとらすによむか口伝(くでん)也長
の字はなかきとよむ故(ゆへ)に/酒(さけ)はなかく。ひさしくのむか
本意(ほんい)ぞや又/酒(さけ)ははかりなし。らんにおよはすと云(いふ)事も
候へば。かきりはなきもの也。ゆる〳〵とのみたまへ
さて又申につけては。おこがましけれども。親祖父(おやおうじ)の
代(だい)より。医者(いしや)の家(いへ)にして。昼(ちう)夜/医術(いじゆつ)の/工夫(くふう)をは
けまし時(とき)の運気(うんき)をかんがへ。かゝる程(ほど)の/病人(びやうにん)ひとり
として平愈(へいゆ)すと云事なし。しかれともまんが
わるふていつも囲炉裏(ゐろり)に/屈(かゞ)む。灰毛猫(はいけねこ)のことく悴(うつけ)
果(はて)たる野夫医師(やふくすし)にて。一/生(しやう)をくらさん事(こと)こそ/口(くち)れし
けれ。皆白人衆(みなしらうとしゆ)ははやるいしやをば。なへて上手(じやうす)とおほしれ