翻刻
こちへわたせ。只(たゞ)一ふくにてころして見せん。是にまし
たる証拠(しやうこ)はあらじと云ければ。山伏(やまぶし)は一/言(ごん)にも不(す)_レ及(およば)
家(いへ)のものとて。貝吹(かいふい)て迯(にげ)けれは。是ぞまことの。はぢ
をかくぞういん。さもそうづ〳〵とかつらからと打わらひ
則(すなはち)薬をもりけるに。病人(びやうにん)の仕合に木斎が志あわせ
出合て。程なく本復(不んぶく)したりけりかくごとく打つゞき
堂る手柄(てから)尓。薬代を取かさ年侍れ共まことの
療治(りやうぢ)。しおふせたるはまれれはすへ徒々くべき
屋うはなし。然れば志なしに志くはあらじと。衣(い)
類ひをかざり。辻(つじ)六尺をやとひ。余(よ)せいさま〳〵せし
程に。問しやうは朝(あさ)にめしをくふて。夕部(ゆふへ)に志るをも
すわで。からりちやんとして。居るのみなりされともお
もてむきの志るしにて。あなたこなたの買(かい)がゝり
かさなり。五節句(ごせつく)まへには。宿(やど)に居(い)る事なし或年(あるとし)
の暮(くれ)に。衣紋(ゑもん)ひきつくろい。ちりめんの/黒羽織(くろはをり)を着(ちやく)
し。宿をいてんとせし所へ。薬種(やくしゆ)屋の左次兵衛来りて
通(かよい)の/御算用(ごさんやう)なされ被_レ 下候へ。もはや永々(なが〳〵)の事
にて御座候いつそやも長次(てうじ)を遣し候。そのゝち勘(かん)
蔵(ぞう)をさしこし。其以後けい志んを進(しんじ)候へ共。終(つゐ)に
御算用なされくたされす候故。私(わたくし)も問屋ばらい
にめいわく仕候といへば。いやてうじも。かんそうも
けい志んもこぬといわるゝ。左次(さじ)も志んちう色(いろ)になりの