翻刻
いやこしましたと云て。たがいに高声(たかごへ)になりてあら
そはるゝ目玉之助さし出て。まづ〳〵東西(とうざい)志づまり
ゐへ。爰(こゝ)に一つのさはきがござる。旦那(たんな)は薬種(やくしゆ)の事
かとおもわれて。云(いひ)かける。つけかけかとて。せかるゝ也。
さりとはさじのちがひじや。只(たゞ)つかひに。手代(てだい)の長次郎
と。てつちの勘蔵を。さしとし候と。申さる連ばよひ
耳。何のわけなしに。てうじかんそうと。いわれし
故(ゆへ)にまちがふたり。されどおけい志んと云。人の
名は有まいが。是がひしんじやといへば。目玉ゐへの御
ふしん尤々。めつた町(てう)のまるたのけいしんは。旦那
とハ百壱本の。ちいんを志つたに依(よつ)ておもてを通(とを)るを
たのふでおこしましたといへば。それでこそ/絵(ゑ)がとけ
たれ。たがひにせいた時には。かけはこわぬ物じや
先(まづ)おちや参れとて。せんしちやをさし遣しければ
左次云是をのみて。しばらく木斎の機嫌(きけん)を見合(みやわす)
るとて。さて〳〵けつかう成御/羽織(はをり)を免しましたと
不めければ。木斎もきげんなをりて。されは〳〵此
中/或(ある)御はたもと志ゆの。秘蔵(ひそう)の児小姓(こごせう)が大傷寒(だいしやうかん)を
わづらひ。十/死(し)一/生(しやう)なりしに。歴々(れき〳〵)の上手の/跡(あと)へ。われら
薬をつかはし本復(ほんぶく)する。御主(しゆ)人より。褒美(ほうび)にくだ
されたりと云所へ。ますやの斗(と)右衛門にて御座候御
見廻(みまい)申上まするとて来(きた)るを。内客有(ないきやくあり)といわせ