翻刻
いしや衆にかゝり。四五ケ年此のかた療治(りやうぢ)すれ共。さら
に撿(けん)なし。然間木斎さまの御事。承(うけたまわ)り及び参り
候とてのり物をかきすへ。御出被_レ 下候はゞ忝(かたじけなく)可_レ奉_レ存候
と申ければ。木斎/武家方(ぶけがた)へは参るが。町方へは何方
へもまいらねとも。きゝおよびて遠方迎(ゑんはうむかい)にさし
こされ候上は。先参りて見侍らんとて。乗物(のりもの)につられて
行けるが。病体(びやうてい)を見て。先衣(まつい)類いけつかうにて厚(あつ)
着(ぎ)也。ぬきてきかへゐへとて。もめんあはせ壱つにし
て三尺手ぬぐひを帯(おび)にさせ。細引(ほそひき)を大こく柱(はしら)に
引かけそのさきをわなにして肩(かた)にかけさせ。昼(ちう)
夜(や)共にひき居ゐへとて。ひかせける程(ほど)に。廿日ばかり
にもなれは。したひに気分(きぶん)かろくなる其時食物を
黒米(くろごめ)の飯ぬか見そ汁赤(しるあか)いわしより外はきんもつ
とてくはせすしてとき〳〵何にもさはらぬ薬を
用侍れは。半年ばかりの内に。すき〳〵と治(ち)
して。成程すくやか者(もの)と成たり。此しかけはいか成故
ぞとたつねけるに彼/福者(ふくしや)其古しへ貧(まつし)き時(とき)うなき
沢の舩頭(せんとう)にて。きやうとくへゆきかよふ舟を。引
たりし者成る今/福貴(ふつき)と成て美服(ひふく)珍味に身
を。うまし侍る故。病者と成たりかるか故にかく
のごとく。しかけ侍りけるとぞ。夫よりりやうじ旦那
と成て。数年出入ける所に。又身を□まして大酒と