翻刻
りとしたる煩(わつらひ)也。先わづらひ付をたづねければ。つゝ▢
喉(のんど)のかはきける故。水をのみ侍るに。のみ残したる
水を見れば。糸の細きなる。長き六七分程の色赤
き虫。四筋五筋有を。見れば皆いきてうごく▢そ
れをのみし故にや。ふくちうに虫のありくやうに
むす〳〵として気味(きみ)悪(あし)きゆへ。おのづから。気おもく
罷成。薬を服(ふう)用(やう)仕候へば。なを気分あしく候と申
木斎きかれて。それこそわれらの。得(ゑ)手の療治(りやうじ)
御心やすかれ早速(そうそく)治してまいらせん。その虫さへ
くだし候へは。すきと本ぶく有べしとて。薬を調(てう)
合(かう)してのまする。其剤(そのざい)すこし。下りめにしかけて
明日(あくるひ)見廻てうら心をたづねければ。夜中二三度。側(かわ)
屋へ行侍ると云さらばそれを見申さんとて。木斎
ゆきて見るていにもてなし。袖の内よりしんくの
糸の。六七分はかりのきりくずを取出して側屋の
内へまきちらし。そしらぬふりに立かへり。もはや本
ぶく有べし。虫(むし)はみなくたり侍る。側屋へ行て見たま
へとて。見せければ。まことに赤き虫有と見て
心をてんじける故にや。そのまゝ快(くはい)気を得。程(ほど)なく
本復したりければ。今の世のおやくしさま也とて
大によろこび。宜薬代を送り。其上に木斎を招
待(だい)す。則(すなはち)梶(かちへ)右衛門/相伴(そうばん)に参(まいり)ける。木具にて本二三