翻刻
向詰迄(こふつめまで)の婦るまひ。さま〳〵の珍肴にて美酒を
すゝめ。初むかしの宇/治茶過(ぢちやすぎ)て。又夜に入て。後段の
めんるひ吸(すい)物出て。又/数盃(すはい)をすゝめける故に木斎
いつより機嫌能(きけんよく)。長座せられ四方(よも)山の咄(はなし)有し程
に。亭主(ていしゆ)の福右(ふくへ)申さるゝは。近/年程(ねんほと)医(い)師衆おほき
事は。上代にも候まじ。然れ共上手はまれに。下手
はおほしと見へたり。又おやは上手にて子はさなき
も有。父がよき事ばかりをかんがへて子に伝ふべ
きに。子の下手(へた)成こそ。ふしんに候といへば木斎申
さるゝは。当(とう)代/医師(いし)のおほき事は。御代(みよ)静謐(せいひつ)に治(おさま)り
人おほくなりたるまゝ。奉公(ほうこう)人も町人も百姓(ひやくしやう)までも
二男三男の払方(はらいかた)にこまり。医(い)をならはするもおほし
又是は片輪(かたわ)。是はどんそこ成とて。医(い)者になすも
有。いしやの跡は。医の器量(きりやう)に生(むま)れつかねとも。大方
医道を継(つく)。又浪人も。渡(と)世なりかね。いしやにも成也
然間世上にいしや多(おほき)こそことはりなれ。先いしやは
はやり物成とて。誰人の狂歌(きやうか)にや日出いしや。四つ猿(さる)
楽(がく)に。ひる坊主。八つ町人に入相の武士とよみけるゆへ
人々心がけけるとぞ。爰に忰侍(かせさふらい)有しが。右之狂歌
尤とかんじて。つね〳〵医道を心かけ侍るに。不/図(と)牢(らう)人
せし程に。幸(さいわい)といしやになり候へ共。しか〳〵とたのむ
者なければ。右之本歌にてかく