翻刻
みやくをかんかへ。しばらく工(く)夫の体(てい)に見へけるが。いか
にも一/療治(りやうじ)は有べき也。然共元来。ものゝけより
出/生(しやう)したる煩なれば。祈念(きねん)加持をも。せられ
候へと云ば。中々/安陪(あべ)のせいほく殿と申仁を。頼み
昼夜きねんも仕候といへり。さらはその安陪氏(あべし)
へ御目にかゝらんとて晴卜(せいぼく)に対面(たいめん)して初会(しよくはい)の辞
義。五法指(ごほうさし)合/済(すみ)ての後。木斎申されけるは。せいほく
殿の御先祖の晴/明公(めいこう)と。われらの先(せん)祖大/医(い)重
雅と。僧(そう)の勧修(くはんしゆ)と三人。或時/藤(とう)の道(みち)長の宅にて
参り会ゐふに。晴明申されしは。只今/怪(あやしき)事侍らんに
門を閉(とぢ)て。客を入させゐふなと。云へる程に。門をか
ためておはす所に。はや叩(たゝく)者有。是をとへは和州(わしう)の瓜(うり)
のつかひなり。門をひらきて内にいれ。其瓜を鉢(はち)
につみて座敷(ざしき)へ出し侍る時/相国晴明(しやうこくせいめい)に向て。家之
内の怪異(くはい)有事外に不_レ知。此瓜を食すべきや。否や
と問せゐへば晴明占て云く。瓜(うり)に毒有べし。食し
ゐふべからすと云/相国(しやうこく)のゐふは。瓜毒に毒は有へからず
定て此内に。有もなきも侍らん。勧修(くはんじゆ)いかんとあれ
ば。勧修則/呪(じゆ)を誦(しゆ)し加持しゐふに。一つの瓜鉢より
おどりいでゝ座中(ざちう)を廻る。その時/我先祖重雅(わがせんそしげまさ)。袖(そで)の内
より針(はり)を取出して此瓜に針せし時。則/躍(おどり)やみて
鎮(しづま)りぬ。是をわりて見れば毒蛇(どくじや)有て。まなこに針