翻刻
【右頁】
據(こ)は前編(ぜんへん)に詳(つまびらか)なり其後(そののち)記録(きろく)の考(かんがへ)がたきは博覽(はくらん)の君子(くんし)を待(まつ)のみ近比(ちかごろ)人(ひと)の
しる所(ところ)は寶永(ほうえい)五年/戊子(つちのへね)より享和(きやうわ)三年/癸亥(みづのとのい)まで九十六/年(ねん)の間(あひだ)五回(いつたび)流行(りうかう)す古(いにしへ)
より記録(きろく)に載(のする)も今(いま)流行(りうこう)するも東國(とうこく)より起(おこり)し事(こと)なく毎度(まいど)西國(さいこく)より東國(とうこく)に
流行(りうかう)す是(これ)
日本(につほん)の地氣(ちき)にて起(おこる)病(やまひ)にあらず外國通舩(ぐわいこくつうせん)より傳來(つたへきたる)ゆゑなり其(その)毒氣(どくき)のめぐ
り來(くる)に大抵(たいてい)年數(ねんすう)あるに似(に)たれども亦(また)さだまりなく國々(くに〳〵)の人(ひと)残(のこり)なく病(やみ)つく
せば病(やむ)べき人(ひと)なき故(ゆゑ)に此病(このやまひ)たえて又(また)しばらくすれば外國(ぐわいこく)より傅來(つたへき)て流行(りうかう)する
なり其(その)流行(りうかう)恰(あたか)も痘瘡(とうさう)の一國(いつこく)病(やみ)つくせば他國(たこく)へうつり又(また)しばらくすればめぐ
り來(くる)にかはる事(こと)なし是則(これすなはち)傷寒時疫(しやうかんじえき)の如(ごと)く其年(そのとし)の氣候(きこう)の沴(みだれ)にてはやる病(やまひ)に
あらざる故(ゆゑ)に一國一郡(いつこくいちぐん)にかぎりて痲疹(ましん)を病事(やむこと)は古(いにしへ)より今(いま)にいたるまで絶(たえ)てなき
【左頁】
事(こと)なり
和漢(わかん)古今(ここん)の醫流(いりう)これをしらず其年(そのとし)の氣運時令(きうんじれい)の疫癘(えきれい)なりと心得(こゝろえ)すべて
風邪(ふうじや)の薬(くすり)を用(もちゆ)るは甚(はなはだ)しき誤(あやまり)にあらずや氣運時令(きうんじれい)の病(やまひ)にならざるゆゑに其(その)病(びやう)
者(じや)にちかよらず衣類(いるい)器物(きぶつ)食物(しよくもつ)などをよく禁制(きんせい)し流行(りうかう)の地(ち)にゆかざれば人(ひと)の
生涯(しやうがい)決(けつし)て病事(やむこと)なき病(やまひ)なり
《振り仮名:黴瘡|ばいさう|かさ 》の《振り仮名:濫觴|らんしやう|はじまり》
黴瘡(ばいさう)も痘瘡痲疹(とうさうましん)とおなじく古(いにしへ)なき病(やまひ)なり醫書(いしよ)に時氣(じき)にて起(おこ)り又(また)は湿(しつ)
氣(き)にて起病(おこるやまひ)なりといへどもさにあらず是(これ)も亦(また)異國(いこく)の毒氣(どくき)を人(ひと)より人(ひと)に傳(つたへ)そみ
て萬國(ばんこく)に瀰蔓(はびこり)
日本(につほん)にも傳來(つたへきたり)しなり其(その)濫觴(らんじやう)を尋(たずぬ)るに西洋開國(せいやうかいこく)より千四百九十四/年(ねん)に當(あたり)