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【右頁】
のみならず古(いにしへ)より今(いま)も尚(なを)異國(いこく)より渡(わたり)て榮(はえ)そだつ草木(くさき)おびたゝし唐(とう)の代(よ)
にさへ長安(ちやうあん)に牡丹(ぼたん)はなかりしを則天皇后(そくてんくわうこう)西河(せいが)より上苑(じやうゑん)にうつし植(うゑ)てより
蔓延(はびこり)しと舒元輿(じよげんよ)が牡丹(ぼたん)の賦(ふ)の序(じよ)に見(み)へたり其他(そのほか)なき土地(とち)に移(うつし)て榮(はえ)そ
だつ草木(さうもく)は數(かぞふ)るにいとまあらず草木(さうもく)は土(つち)にやどりて何(いづれ)の國(くに)へも傳(つたへ)痘瘡(とうさう)痲(ま)
疹(しん)黴瘡(ばいさう)疥瘡(かいさう)の類(たぐひ)有形(ゆうぎやう)惡毒(あくどく)の病(やまひ)は人(ひと)の氣血(きけつ)にやどりて何(いづれ)の國(くに)の人(ひと)にも
傳(つたふ)傷寒(しやうかん)時疫(じえき)の類(たぐい)は其年(そのとし)の陰陽(いんやう)の時令(じれい)にて聚(あつまる)も散(ちる)も定(さだ)まりなければ
其氣(そのき)もとのごとく淸(すめ)ば其(その)邪氣(じやき)もおのづから消失(きえうせ)て病人(やむひと)なし是則(これすなはち)無形(むぎやう)の
邪氣(じやき)なるゆゑなりおよそ病(やまひ)は草木(さうもく)の土地(とち)に相應(さうおう)せざれば枯(かれ)はつるが如(ごと)く
其病(そのやまひ)の毒氣(どくき)と其(その)土地(とち)の氣(き)と相應(さうおう)せざれば延蔓(はびこら)ざると見(み)えて北國(ほくこく)の
胡(ゑびす)には痘瘡(とうさう)なきよし醫書(いしよ)に見(み)ゆしかれども胡(ゑびす)も中國(ちうごく)に來時(きたるとき)は痘瘡(とうさう)を病(やむ)
【左頁】
といへば胡(ゑびす)の國(くに)にても近(ちか)ずかばかならず迯(のがれ)がたからん
日本(につほん)は陰陽(いんやう)淸和(せいくわ)にして土地(とち)の毒氣(どくき)甚(はなはだ)うすきとおぼしく諸(もろ〳〵)の薬種(やくしゆ)の類(るい)も
舶來(はくらい)のものにくらぶれば其効(そのかう)うすし是(これ)全(まつたく)土地(とち)のあしき故(ゆゑ)に其効(そのかう)の薄(うすき)には
あらず土地(とち)の毒氣(どくき)うすきゆゑに其効(そのかう)もうすきなり土地(とち)のよきしるしは人(ひと)
の脾胃(ひい)を補(をぎなふ)五 穀(こく)菜菓(さいくわ)の類(るい)は稔(みのり)味(あじはひ)までも萬國(ばんこく)に勝(すぐれ)て類(たくひ)なし是(これ)に依(よつ)て
人物(じんぶつ)も極(きはめ)て豪雄(がうゆう)なるゆゑ武勇(ぶゆう)は世界(せかい)第一(だいいち)なりと異國(いこく)におゐても稱美(しやうび)す
《割書:蛮説にイキリスタルタリヤ日本を世界の|三武国と称して日本を其第一とす》かゝる陰陽(いんやう)淸和(せいくわ)の國(くに)なる故(ゆゑ)に土地(とち)の氣(き)
に痘瘡(とうさう)痲疹(ましん)黴瘡(ばいさう)疥瘡(かいさう)の如(ごと)き惡毒(あくどく)の病(やまひ)はおこらざるなり然(しかれ)ども其毒(そのどく)
氣(き)にふれて染(そみ)やすきは天地精英(てんちせいゑい)の氣(き)を稟(うけ)て天地(てんち)と一物(いちぶつ)なる人身(じんしん)なれば
陰陽(いんやう)の氣(き)はよきもあしきも感應(かんおう)す其(その)感應(かんおう)の速(すみやか)なるは聲(こゑ)にこたまの應(おう)ず