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【右】
まくらを並(ならへ)らへて寝(ね)たりけれは麻疹勢(はしかせひ)此虚(そのきよ)を伺(うかひ)ひ
まづ風(かせ)を吹(ふかせ)かせて嚏(くさめ)をさせ火床(ほど)にふいごをしかけ
て大熱(たいねつ)を起(おこし)し槌(つち)をもつて頭(かしら)を打(うつ)て頭痛(づゝう)させその外(ほか)
いろ〳〵の道具(とうぐ)をもつて責悩(せめなやまし)しけれは茶(ちや)九郎大に驚(おどろき)き
始(はしめ)て不養生(ふようせい)より此苦(このく)を得(ゑ)たる事を悔(くゆ)るといへともせん方(かた)
なく打臥居(うちふしい)にけるを升麻葛根/此体(このてい)を見て憎(にくき)き
麻疹(はしか)めか振舞(ふるまい)かないて一と攻責(せめせめ)て追至(おいいた)さんと兼(かねて)
て用意(ようい)の仲間(なかま)黄連解毒(おうれんげとく)を先(さき)に立(たて)て麦門(ばくもん)地(ぢ)
骨皮(こつひ)をさし添(そへ)或は白虎湯蔵(ひやくことうそう)と差替(さきかはり)〳〵手(て)を尽(つくし)し
て責立(せめたて)けれははしか勢(せい)遂(つい)に追(おい)まくられ此所(このところ)を立(たち)さりける
又(また)与太郎町に住(すまへ)ける町人の一人息子(ひとりむすこ)駄太吉(ただきち)とて
【左】
伊吾(いご)にはすこし 生(うまれ)れ まし涎喰(よたれくい)とは兄弟分位(きやうだいふんくらい)の生(うまれ)れつきにて七八
才(さひ)にも成(なり)りけれと常(つねに)に父母(ふぼ)の仰(おふせ)も聞入(きゝいれ)れす我侭(わがまゝ)なりけるを麻(はし)
疹勢(かせい)これ幸(さいわい)と押込(おしこみ)何でも四文(しもん)の煮(につけ)つけ肴屋(さかなや)胡麻揚(こまあけ)
天麩羅(てんふら)なとを鼻先(はなさき)へ持参(もちまいり)いろ〳〵ねたり言(こと)をいわせおもふ
さまたく【堂〳〵?】させて仲間(なかま)暫(しはらく)く此/所(ところ)に逗留(とうりう)し草臥(くたひれ)を休(やす)めんと
おもひしに薬種(やくしゆ)かた早く是を知(しつ)てもし此虚(このきよ)に乗(のつて)て痩多(やせた)
疳之丞(かんのしやう)出(いて)て來(きた)らば大なる難義(なんぎ)とならんとその手当厳重(てあてけんちう)にし
て甘(あまき)き物(もの)また生(なま)にて冷(ひへ)たる物(もの)腥(なまくさ)き魚類(うをるい)等を禁(きん)し手(て)を尽(つくし)して
防(ふせき)きければこれも難(なん)なく快気(くわき)すといへ共/危(あやう)かありける次第
なり今(いま)子供衆(こともしう)のねだり事をいふを駄太(だゞ)といふは此駄太(このだゞ)
吉(きち)より始(はじまり)りけり又或は店(たな)の番頭(はんとう)薬種勢(やくしゆせい)の御影(おんかけ)に依(よつて)て