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【右】
かる〳〵と仕(し)てをり身(み)を慎(つゝ)しますふつとおもひ冨ケ岡のかた波(なみ)
の上の風紀(ふうき)を犯(おかし)し早帰(はやかへ)りの心熱(しんねつ)となり再(ふたゝ)ひ麻疹勢(はしかせい)
に責寄(せめよせ)られすてに危(あやうく)く見へたりしが薬種勢(やくしゆせい)心を合せ御医(おい)
師(し)の軍配(くんはい)に随(したかい)ひこれも漸(ようやく)く快気(くわき)なり又或(またあるい)はうかれ
女(め)の十年/苦界(くがい)の苦(く)の内(うち)にまたはしかの苦(く)に責(せめ)られよるべ
定(さだ)めぬ流(なかれ)れ身(み)仇浪(あだなみ)かけし仇枕(あたまくら)かはす詞(ことば)はいつわりの誠(まこと)すく
なき人心かくての果(はて)はいかにせんと忍(しのひ)ひ涙(なみた)にに胸(むね)せまりたばこ
のんでもきせるよりとはおもひ重(かさな)る人の上(うへ)飯(まゝ)も透(とを)らぬ難症(なんせう)
なりしが薬種勢(やくしゆせい)ひとしほ哀(あはれ)におもひ評義(ひやうぎ)しけるは産(うみ)の
親(おや)は越路(えちろ)のすへはる〳〵爰(こゝ)に流(ながれ)れ来(き)て沈(しつみ)み果(はて)たる事なれは
病(やま)でさへ年の内/浮(うかむ)む瀬(せ)はなき身(み)の上(うへ)なれはいで精力(せいりき)を
【左】
尽(つくし)し救(すく)はんと名高(なたかき)き医師(いし)と心を合せ一ヶ月/余(よ)の日数(ひかす)を経(へ)て
漸(よふ)〳〵病の床(とこ)をはなれたりしが我侭(わがまゝ)ならぬ五尺(ごしやく)の身(み)すがゞき【弦楽器をかき鳴らすこと】
の音(ね)にせり立られ夕みせの勤(つとめ)にすはりたれどいまたほど経(へ)ぬ
病の身物おもひにおのつから懐(ふところ)に顔(かほ)さし入れうつぶきたる
額(したい)にほつれかゝりし前髪(まひかみ)も殊(ことに)にうつくしく見へたりければふと
煩脳(ぼんのう)【煩悩】の風誘(かせさそう)ふに格子先(こうしさき)より見立られかはす枕(あくら)の床(とこ)のうち
おもしろそふな客人(きやくじん)とおもふ心の迷(まよひ)より下紐(したひも)までもうちとけて
かたらひけるけのきぬ〳〵の朝(あした)より再(ふたゝひ)ひはしか勢(せい)につけこまれ
既(すてに)に危(あやうく)く見へたりしが薬種勢(やくしゆせい)臨機応変(りんりおうへん)千変万化(せんへんばんくわ)
その身を守護(しゆご)して責立(せめたて)ければ又/安楽(あんらく)の身となりたりける
是皆(これみな)不養生(ふようせう)の仕(し)そこなひおそれつゝしむへきことなり扨(さて)此後(このご)