翻刻
でもどかしがりさいわいのアノ岩(いは)の蔭(かげ)日頃(ひごろ)の思ひを思ふさまはらさせておも
らいと男(おとこ)の側(そば)へつきやつて〽仲人(なかうど)は宵(よい)のうち床盃(とこさかづき)のお吸(すい)ものモシ蛤(はまぐり)は不塩(ぶゑん)じや
ぞへおまへもぬしの生酢(なます)の子(こ)の海鼠(なまこ)がいかにおいしいとてあんまりたんと食過(たべすぎ)まへ
ぞへ跡(あと)で腹(はら)が張(はつ)てはならぬとおとけまじりの気(き)さく者(もの)粋(すい)を通(とほ)してはしりゆく男(おとこ)
も嬉(うれ)しくそばへより能事(よいこと)には寸善尺魔(すんぜんしやくま)邪(じや)魔のないうちにこそと言葉(ことば)少(すく)
なに引寄(ひきよせ)て〽わたしも此地(こゝ)へ来(き)た時(とき)から余処(よそ)ながらおまへの姿を見(み)るたび〳〵
きりやうなら姿(すがた)なら心(こゝろ)だてまで美(うつ)しくあれほとそろふた娘子(むすめご)かまたとふ
たりあらうかと思(おも)ひこんだはとうの事(こと)あゝいふ娘(むすめ)に一度(いちど)でも逢(あふ)たらそれ
こそ男(おとこ)の本意(ほい)と思へど及(およ)ばぬ霞(かすみ)に千鳥(ちどり)雲(くも)よりけはしはしたなく言(いゝ)よる
事(こと)もならざりしにおまへの方(はう)にもそれほどまで思(おも)ふて下(くだ)さるかこゝろさしわ
すれはおかぬうれしやとそのまゝじつといだき〆(しめ)はづかしがる娘(むすめ)の口(くち)へ口(くち)をしつつけ
チウ〳〵〳〵口(くち)を吸(すは)れてうれしいやらはづかしいやら上気(じやうき)してどきつく胸(むね)をおし鎮(しづ)