翻刻
思(おも)ひのますかゞみうつす心(こゝろ)の水(みづ)もらさじとかたみに結(むす)ぶ言(こと)の葉(は)によろこびいさむ
笑(ゑみ)の眉(まゆ)たがひの胸(むね)もはれわたるのどけき春(はる)の浦景色(うらげしき)つきぬ契(ちぎり)そたのしけれ
明石(あかし)
秋(あき)の夜(よ)の月毛(つきげ)の駒(こま)のそれならで雲井(くもゐ)を恋(こ)ふる煩悩(ぼんのう)をとゞめかねたる心(こゝろ)
の駒(こま)忍(しの)びてかよふ枝折(しをり)の外(そと)思(おも)ひがけなき恋人(こひひと)はいのりし神(かみ)の引合(ひきあは)せト嬉(うれ)し
さあまりてぶる〳〵トふるうばかりの心(こゝろ)をしつめ娘(むすめ)の側(そば)へそつと寄り〽ヲヤ〳〵
わたくしはお鳥(とり)どんかと思(おも)ひましたらもう亥刻前(よつまへ)でございませうにおひ
とりで此(この)ような所(ところ)に何(なに)をしておいでなさいます〽ヲヤどなたかと存(ぞんし)たらヲホヽヽ
アノわたくしはあんまり今夜(こんや)の月(つき)かおさへなさつたのでついうかれて庭(には)づたいに出(で)
て見(み)ましたのさ〽ほんにま事(こと)によくさへましたが此(この)月(つき)に引(ひき)かへてとかくわたしの
胸(むね)はくもりがちさへる間(ま)とではございません人(ひと)をたのんでよう〳〵ト送(おく)りし雁(かり)
の玉章(たまづさ)もそれなりけりの片(かた)だよりト聞(きい)て娘(むすめ)はあと先(さき)見廻(みまは)し〽其(その)おへんじ