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至(いた)らんとするを見(み)。軍柵中(くんさくちう)の兵士(へいし)ども尽(こと〳〵)く。田畝(でんほ)【注】に出(いで)て刈(かり)たる禾(あわ)を取(と)り収(おさ)め
て。留守(るす)には僅(わづか)十人のこり居(ゐ)る時節(じせつ)にのぞんで。俄(にはか)に胡人(こじん)の騎馬(きば)を連(つら)ねて襲(おそひ)
来(きた)るを。舜臣(しゆんしん)ははやく柵門(さくもん)を閉(とぢ)かため。自(みづか)ら柳葉箭(りうやうせん)をおつとり柵(さく)の内(うち)よ
りさしとり引(ひき)つめ。散々(さん〴〵)に射立(ゐたて)れば何(なに)かはもつてたまるへき。賊(ぞく)数十騎(ずしうき)をやに
はに馬(うま)より射倒(いたふ)しけり。胡虜(こりよ)是(これ)に驚(おどろ)いて忽(たちま)ちに退(しりそ)き去(さ)る。舜臣(しゆんしん)夫(それ)より
大(おほき)に門(もん)をひらかせ。只(たゝ)一騎(いつき)にて馬(うま)駈出(かけいだ)し大(おほい)に呼(さけ)んで是(これ)を逐(お)ふ。虜(ゑびす)どもこれに乱(みだ)
れ立(たつ)て尽(こと〳〵)く奔去(はしりさ)るは。全(まつた)く舜臣(しゆんしん)か力(ちから)なり然(しか)れども誰(たれ)あつてこれを朝廷(てうてい)に推(おし)
挙(あぐ)る者(もの)なふして。それより十四 年(ねん)小官(せうくわん)に隠(かく)れしを。今度(こんど)倭賊(わぞく)の急(きふ)なるゆゑに
召出(めしいだ)さるゝと聞(きこ)えけり。時(とき)に朝鮮(てうせん)の朝廷(てうてい)に武将(ぶしやう)多(おほ)しといへども。惟(たゞ)申砬(しんりつ)と李(り)
鎰(いつ)の二人のみ。最(もつと)も名(な)ある輩(ともがら)なりまた。慶尚右兵使(けくしやくゆうへいし)曹大坤(そうたいこん)已(すで)に其年(そのとし)老(おひ)に
【注 畝の古字「畞」の俗字】