← 前のページ
ページ 251 / 451
次のページ →
翻刻
と皆(みな)一 口(こう)に諌(いさ)め奉(たてまつ)る。王李㫟(わうりえん)は一旦(いつたん)彼等(かれら)が意(こゝろ)をなだめんと。宗廟(そうべう)社稷(しやしよく)こゝに有(あり)
朕(われ)これをすてゝ将(まさ)に何方(いづかた)に往(ゆか)んや。心安(こゝろやす)くおもふべしとなだめらるゝに諸大臣(しようだいじん)一同(いちと)
に有難(ありがた)しとて退出(たいしゆつ)せり。此時(このとき)に京城(けいじやう)を警衛(けいえい)すべき人(ひと)なければ。里民(りみん)をかり立(た)
て諸役所(しよやくしよ)の小奉行人(こぶきやうにん)或(あるひ)は医官(ゐくわん)巫祝(ふしゆく)の輩(ともがら)までを相集(あひあつ)め。城堞(じやうてう)を分(わか)ち守(まも)らし
む。それさへ総人数(そうにんず)三 万余(まんよ)に過(すぎ)ざれば城(しろ)を守(まも)る人兵(にんべい)は。僅(わづか)に七千には足(た)らざり
ける。元(もと)より烏合(うがふ)の集(あつま)り勢(ぜい)闘戦(とうせん)に心(こゝろ)なく。間(ひま)をうかゞひ何(なに)とぞして城中(じやうちう)を逃(のが)れ
出(いで)んとおもふばかりの者共(ものども)なり。其中(そのなか)に官軍(くわんぐん)の歴々(れき〳〵)上士(じやうし)といへる輩(ともがら)は。此等(これら)が
隊(そなひ)の長(かしら)となつて有(あり)ながら。その下奉行(したぶぎやう)と云合(いひあは)せ金銀(きん〴〵)をいだす兵卒(へいそつ)あれば。ひそ
かにこれを放(はな)ちやるもまた多(おほ)かりける。軍政(ぐんせい)の懈(おこた)り弛(ゆる)べること如此(かくのことく)なる時節(じせつ)
にあたり。満城(まんじやう)の譟動(そうどう)大(おほ)かたならずして。しばしも座(ざ)をなす者(もの)もなし。扨(さて)五月