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候 古主(こしゆう)川田豊前守(かはたぶぜんのかみ)は上杉景勝(うえすぎかげかつ)【杦は異体字】の家老(からう)にて。越後(えちご)春日山(かすがやま)へ折々(をり〳〵)参(まゐ)り
申候 時(とき)。某(それがし)十三の時(とき)より従(したが)ひ参(まゐ)り。越中(えつちう)。越後(えちご)のさかい川(かは)。山姥(やまうば)の出(いで)たる姫(ひめ)
はや川(かは)。四拾八 瀬(せ)なども游(およ)ぎこし候 得(え)ば。これほどの川。越後(えちご)にては溝(みぞ)も
同(どう)やうなりと。鎧(よろひ)をぬぎ捨(すて)下帯(したおび)計(ばかり)に太刀(たち)を背(せ)におひ。川(かは)へ飛入(とびいり)逆巻水(さかまくみづ)
を事(こと)ともせず。一 文字(もんじ)に向(むか)ふの岸(きし)に游(およ)ぎつき。大(おほい)なる家(いへ)に走(はし)り入(いり)て見(み)れば。
人(ひと)一人もなければ捨置(すておき)たる飯(めし)などを。おもひのまゝに食(しよく)し小船(こふね)一艘(いつそう)に打(うち)
乗(のり)。此方(こなた)の岸(きし)へ漕(こぎ)もどしければ。清正(きよまさ)大(おほい)に歓(よろこ)び是(これ)見(み)よや人々(ひと〳〵)。上杉家中(うへすきかちう)
の武勇(ぶゆう)のたしなみ。その心(こゝろ)がけの深(ふか)き事(こと)よとて。即座(そくざ)に五百 石(こく)の墨附(すみつき)
に肩白(かたしろ)の具足(ぐそく)兜(かふと)一 縮(しゆく)に。名(な)ぎりといへる名馬(めいば)に青貝(あをかひ)の鞍(くら)おいて。孫(まご)六に与(あた)
へける。扨(さて)かの小船(こぶね)に数人(すにん)打乗(うちのり)向(むか)ふへ渡(わた)り。数(す)十 艘(そう)の船(ふね)を取来(とりきた)つて一万