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朝鮮王(てうせんわう)処々(しよ〳〵)艱難(かんなん)の事(こと)
朝鮮王(てうせんわう)李㫟(りえん)はすでに都城(とじやう)を没落(ぼつらく)まし〳〵。王子達(わうじたち)をば道(みち)をかへて落(おと)し
給へて後(のち)。御 ̄ン駕(ば)を急(いそ)がせ給ふといへども。猶(なほ)降来(ふりきた)る雨(あめ)のやまされば道(みち)のほども
はか〴〵しくなければ。左右(さいふ)に供奉(ぐぶ)したる官人(くわんにん)ども助(たす)けかゝへて。恵陰嶺(けいいんれい)を過(すぐ)
る時(とき)は。其日(そのひ)もすでに未(ひつじ)の刻(こく)ばかりになりにけり。雨(あめ)は猶(なほ)はげしうして注(そゝ)ぐが
如(ごと)くなりしかば。宮人達(きうじんたち)はやう〳〵に田家(でんか)の馬(うま)を求(もと)め乗(の)せたれども。雨(あめ)の降来(ふりきた)
るを凌(しの)ぐべきやうなき故(ゆゑ)。手に手に種々(しゆ〳〵)のものを以(もつ)て面(おもて)を蒙(おほ)ふて。まことに雨(あめ)
にそぼぬれたるは浅間(あさま)しき有(あり)さまなり。馬山駅(はさんえき)を過(すぐ)るときは田間(でんかん)に民(たみ)
ども多(おほ)く出(いで)て臨(のぞ)み痛哭(つうこく)し。国家(こくか)今(いま)我輩(わがともがら)を打捨(うちすて)て何方(いづかた)へか去(さ)り給ふ。
我輩(わがともがら)今(いま)より何(なに)をたのんでか。此(この)生涯(しやうがい)を立(たつ)べきぞと号(さけ)び呼(よば)ふ。そのあはれ云(いわ)