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謀(はかりごと)のなき者(もの)なれば咄(とつ)と喚(おめい)て突(つき)かゝる。日本勢(につほんぜい)もしばしは挑(いど)み戦(たゝか)ひけるが。行長(ゆきなが)は
兵(へい)に下知(げぢ)して引退(ひきしりぞ)く。申硈(しんきつ)は勝(かつ)に乗(のり)備(そな)ひを乱(みだ)して追進(おひすゝ)む。二 陣(ぢん)に有(あり)ける権徴(けんてう)
応寅(おうゐん)も兵(へい)を進(すゝ)めて追(おひ)かけけるを。金命元(きんめいげん)是(これ)を制(せい)しけれども耳(みゝ)にもかけす馳出(はせいだ)
す故(ゆゑ)一人にして禁(きん)することあたはず。こゝに応寅(おうゐん)が引率(いんそつ)したりし兵(へい)は常(つね)に北虜(ほくりよ)と
戦(たゝか)ひをなし。軍(いくさ)の虚実(きよじつ)謀(はかりごと)などをもすこしは知(し)りたる者(もの)ともなれば。応寅(おうゐん)に告(つげ)て
云(いふ)やう味方(みかた)の軍士(くんし)今(いま)急(きふ)に追討(おひうつ)こと謀(はかりごと)の可(よ)からざるところあり。よく〳〵敵(てき)の動静(とうせい)
を観察(くわんさつ)して後(のち)に進(すゝ)み戦(たゝか)ひ給へといふ。応寅(おうゐん)これを悪(あし)ざまに聞(きゝ)なし。惟(ひと)へに士卒共(しそつとも)
の戦労(せんらう)をいとふて。言(ことば)をこゝにかこつけて戦(たゝか)ひをとゞむるとおもへは。何(なん)の遠慮(ゑんりよ)にも及(およ)
ばず其(その)頭取(とうどり)となつて。口(くち)をきゝたる者(もの)を捕(とら)へ三人までぞ斬(きり)たりける。金命元(きんめいけん)また
是(これ)をも最(もつと)もよからずとはおもひながら。此(この)応寅(おうゐん)は朝廷(てうてい)より加勢(かせい)として来(きた)りし者(もの)