翻刻
真丸にみなとの町の建つゝきと
ありしを思ひ出て惑いよ〳〵深し
其夜舎りを求めて卧ぬ夜半より
雨しきりにして船出へくもあらす
同船せし人々は雨具等もとめて
いて立と老か身をかこちて
はる雨の空をなかめてなかき日を
くらし侘ぬる袖そぬれそふ
あけの日雨は晴ぬれと風あしきとて
船長にすゝめられ陸地をゆく
陽炎や笠にもしるき雨あかり
浦つたひゆく春のけしき霞こめて
眺望たとへるにものなし
はる〳〵と旅の衣のそらなれて
みるめ嬉しき春の海はら
佐野といふ処に鐘鋳ありとて
まふてきし遠近の人引もきらす
たゝらふむ春暑けなる姿かな