翻刻
【右丁・挿絵・刀鍛冶】
和州正宗
【左丁】
してより其(その)門葉(もんよう)多(おほ)く一時(いちじ)に行れて一頻([ひとし]きり)狩野家(かのけ)衰(おとろ)ひたる
やうに思はれしが近来(きんらい)南蘋流(なんびんけ)漸(やうや)く廃(すた)れて又々(また〳〵)狩野家(かのけ)
を用るやうになれり中興(ちうこう)刀剣(たうけん)抔(など)も新刀(しんたう)が専(もつは)ら行(おこな)はれ古(こ)
刀(たう)廃(すた)れしが又々(また〳〵)復古(ふつこ)して古刀(こたう)行るゝ如くとかく朝夕(てふせき)に用
る器(うつわ)の類(たく)ひ迄(まて)も古来(こらい)より有(あり)ふれて用(もち)ひ来(きた)る物(もの)は
難(なん)なし新規(しんき)の流行物(はやりもの)はむつかし是(これ)皆(みな)人心(ひとこゝろ)はお
かしきものにて尋常(じんじやう)に異(こと)なるを好(この)み有(あり)ふれたる
物(もの)を嫌(きら)ふは心(こゝろ)のひかみ也 謂所(いはゆる)黒小袖(くろこそて)白無垢(しろむく)紅絹裏(もみうら)
萌黄(もへき)の蚊帳(かちやう)なと古(ふる)めかしけれどもすてられぬもの
なり食物(しよくもつ)に又(また)初物(はつもの)とて春月(しゆんけつ)に夏(なつ)の物(もの)を食(しよく)し
秋月(しうけつ)に冬(ふゆ)の物(もの)を食(しよく)するは手柄(てから)のやうに心ゆれども