翻刻
【右丁】
又 年(とし)によりて節分(せつふん)正月 有(ある)こともあり此日(このひ)を追儺(ついな)
といふ大豆(まめ)を打(うち)鬼(おに)やらひすることは悪鬼(あつき)を避(さ[く]る)る
為(ため)なり 本邦(ほんはう)
宇多天皇(うたてんくわう)にはじまる
○鬼(おに)は外(そと)福(ふく)は内(うち)へとうつまめは古年(ふるとし)の邪気(ちやき)払(はら)ふ成けり
○福(ふく)は内(うち)へいり豆(まめ)の今宵(こよひ)もてなしをひろい〳〵や鬼(おに)は出(いつ)らん
右の外(ほか)正月より十二月迄の種々(いろ〳〵)の公事(くじ)祝日(いはゐび)等あま
たあれとも養生(やうしやう)の為(ため)に遠(とほ)きものはこれを除(のぞ)く
なり見(み)る人(ひと)其心(そのこゝろ)をもて用(もち)ひ給ふべし
【左丁】
養生(やうじやう)証拠(しやうこ)幷 歌(うた)
○炭(すみ)の火(ひ)を炉中(ろちう)に養(やしな)へば久(ひさ)しく持(たも)ちて消(きへ)ず是(これ)を風吹(かさふき)の所(ところ)に
あらはに置(おけ)ば忽(たちま)ち消失(せうしつ)す又(また)柚(ゆ)蜜柑(みかん)の類(るひ)をあらはに置(おけ)ば
寒(かん)に痛(いた)みて年内(ねんない)も《振り仮名:不_レ持|たもたす》深(ふか)く養(やしな)ひ貯(たくは)へ置(おけ)ば来年(らいねん)の夏迄(なつまて)も
たもつなり又(また)雪(ゆき)は消(きえ)やすき物(もの)なり是(これ)も日蔭(ひかげ)にあるものは
二三日も持(たも)ち深山幽谷(しんさんゆうこく)に蔵蓄(おさめたくお)ふれば夏月(かけつ)炎暑(えんしよ)に
もきへず牽牛花(あさかほのはな)のもろきも日覆(ひおひ)をして厭(いと)ふ時(とき)は夕方(ゆふかた)
迄(まて)も持(たも)つなり又(また)鈴虫(すゝむし)松虫(まつむし)かうろききり〳〵す類迄(るいまて)も
よく手当(てあて)をなして置(おけ)ば二三年も生(い)き又(また)暖国(だんこく)の蝿(はい)蚊(か)
の類(るい)にも必(かなら)ず越年(おつねん)するもあまたあるべし