翻刻
【右丁・挿絵】
冬開牡丹(とうかいのぼたん)
寒中蟋蟀(かんちうのきり〳〵す)
【左丁】
○大清(いまのから)の都(みやこ)は遼東山(りやうとうさん)の下(した)にて極寒国(ごくかんこく)なり故(ゆへ)に冬月(たうげつ)は菜蔬(さいそ)
の類(るひ)をはしめ寒気(かんき)に中(あた)る物(もの)は貯(たくおほ)ること能(あたは)ず《振り仮名:依_レ之|よつて これ》大なる坑洞(ほらあな)を暖室(だんしつ)
にしつらい是(これ)を名付(なつけ)て南花園(なんくわゑん)といふ遠国(おんこく)ゟ(より)冬月(とうけつ)天子(てんし)へ名木(めいほく)名花(めいくわ)
を献(けんつ)るに途中(とちう)にて寒気(かんき)にいたみ皆(みな)枯凋(かれしぼ)む是(これ)を彼(かの)暖室(たんしつ)に納(いれ)て再(ふたゝ)
ひ生活(せいくわつ)して奉(たてまつ)る也 又(また)臘月(らうけつ)より牡丹(ぼたん)芍薬(しやくやく)を彼(かの)暖室(たんしつ)に養(やしな)ひ花(はな)発(ひらい)
て大内(おほうち)へ奉(たてまつ)る又(また)去年(きよねん)の秋(あき)より蟋蟀(きり〳〵す)を多(おほ)く集(あつ)め是(これ)も暖室(だんしつ)の内(うち)に
養(やしな)ひ置(おき)正月 上元(しやうげん)の夜(よ)天子(てんし)西山(せいさん)に御幸(みゆき)ありて花燈(くわとう)を見給ふ時(とき)
嶅山(がうさん)の花燈(くわとう)の中(うち)に彼(かの)きり〳〵すを納(おさ)め楽(がく)を奏(そう)す楽(がく)止(やめ)ば数万(すまん)の
虫声(むしのこゑ)秋月(しうげつ)の如(ごと)く《振り仮名:盈_レ耳|みゝにみつ》春秋(はるあき)の界(さかへ)を弁(べん)ぜず誠(まこと)に極楽(こくらく)
世界(せかい)の如(ごと)しと云々 是(これ)養生(やうしやう)の仕方(しかた)によつて也 右(みき)の外(ほか)暖国(だんこく)