翻刻
く置へからす火の気戻りて火の気に痛(いた)み疾いつる也/即時(そくし)に目に見へ
すとも変(へん)出るもの也三月の末四月になり陽気/發(はつ)し桑(くわ)の芽能く
ほこれ蚕種/青(あほ)み出るを待て其/里(さと)其地/自然(しせん)の陰気に随(したか)ひ飼(かひ)
立るならは出来不出来の沙汰(さた)有へからす然共/我郷(わかさと)の飼方の如(こと)き
は陰(いん)地故陽気/發生(はつせい)する事/遅(おそ)し末に至り急(にはかに)大/暑(しよ)を催し桑(くわ)
の葉こはり糸筋もふ不 宜(よろし)蛾の□きすみも与からぬ也此故に往古与り一/起(おき)き
二起迄之間一間を志つらひ陽気を拵て飼立るなり東西の風は障(さわり)
なく南風北風は障(さわ)る也/分(わ)けて南風には変(へん)有る也陽風なれは陽と陰
の争(あらそい)にて変(へん)出る歟涼日は火を用る故蚕下乾飼ひ能もの也家内涼く
南風吹事あらは譬(たとへ)は涼しく共/雲(くも)のかよひ北へ行ときは南風なり火を
用へからず雨戸を〆切長押の上家内の引戸明置へし此陰気を知す
して火を用れは変(へん)出る事也夜は子共の寐姿にて能(よ)く知れるものなり
気を附へきの肝要也暖気甚しく桑(くわ)の遍(へん)をかけなげしの
上の引戸等を明(あけ)庭子ならは蚕の下を去り桑を多くかけ悪(あし)き
臭(にほ)ひ籠(こも)らぬ様に気をつくへし是に気の附ぬもの也早々戸を
立ふさき桑を常(つね)にかはらずかけるゆへに不残喰(のこらすくい)きり悪き香ひ生(せ□)る
もしらす大/変(へん)に逢(あ)ふもの也又曰/蠺(かいこ)は湿(しつ)を嫌(きろ)ふもの也蚕屋を大木霞ひ
或は山/岸(きし)土手まゝ近(ちか)く扨は町/並(なみ)家/数(かつ)込風/吹通(ふきとふ)さず日/影(かけ)うとき處
湿気(しつき)甚多し火を以/凌(しのか)んとすれは糀室(こうじしつ)のことく却る湿気(しつき)起り蚕下
黴(かひ)るゝなり蠺のかひたるは甚不宜舟蚕庭蠺に変出る或は種のさへ
さるは湿(しつ)あたりの疾也世間に蚕の當(あたり)り不當り有は湿気有となし
との故なり考(かんか)へき第一也此難を凌く術(しゆつ)は末に記す又曰陽気の取
扱には甚手段有/毛(け)子/獅子(しゝ)蚕の時せつ高/窓(まと)仕切を明け火を置
蚕の下よく乾(かは)く年も有戸を〆切/天井(うらいた)板の引戸斗り明