翻刻
木なる花にも増せし/顏(かほ)のつや/然(さ)れど作りは/否味(いやみ)なく/古渡(こうとう)じみを/専(もつはら)と
/諸事(しょじ)に/如在(ぢよさい)もなか〳〵に/兼好法師(けんこうほうし)ならねども/傾(かたぶ)く/月(つき)も/面白(おもしろ)しと見
はやす人も/多かる/風情(ふぜい)甚助を/見(み)て/莞尓(につこり)と《割書:えん|》「ヲヤ本屋さん/誠(まこと)に/焦(こが)れて
居ましたヨサア〳〵お/這入(はいり)ニなさい今日は子供や女どもをお寺参(てらまい)りにやつて私し
/一人(ひと)り/留守(るす)ばんだから/寛(ゆつく)り/噺(はな)してお/在(いで)なさいなコレ/婬(いん)や/其處(そと)から風が
来て/寒(さむ)いからビツシャリと/〆(しめ)ておいてくんなアノウそしてお/茶(ちや)をヨ。モシ本屋さん
アノ/爰女七艸(むすめなゝくさ)の/六編(ろくぺん)が/出来(でき)たさうだが/持(もつ)てお出か《割書:甚|》「/漸(やう)やく/此間出(このあいだで)ました
から今日は/封切(ふうきり)をお目にかけませうと/思(おも)つて/持参(ぢさん)いたしました《割書:えん|》ヲヤまァ
嬉しいねへそして/続(つゞい)て/七編(しちへん)も出るのかへ《割書:甚|》「/左様(さやう)で御座いますまう
/近日配(きんじつくば)りに/歩行(あるく)さうで御座います《割書:えん|》「/左様(さよう)かへ/楽(たの)しみだねへ《割書:甚|》「/今日(けふ)
は/色々新板(いろいろしんはん)を/持(もつ)て上りました/是(これ)を/一寸御覧遊(これをちよとごらんあそ)ばせ/作(さく)が/女好菴(ちよこうあん)で/画(ゑ)
を/本所(ほんしよう)が/書(かき)ましたが/誠(まこと)に/綺麗(きれい)に/美(うつく)しく/出来ましたト/三冊続(さんさつつゞ)きの
/笑(わら)ひ/本(ぼん)をうや〳〵/敷其処(しくそこ)へ置ばおえんは何の/気(き)も付(つか)ず《割書:えん|》「マア/大造(たいそう)
見事な/表紙(へうし)だねへと/云(いひ)つゝ/手(て)に/採(と)り/開(ひら)いて見れば/生(いけ)るが如くに画
がきたる/極彩色(ごくさいしき)の/笑(わら)ひ/絵(ゑ)なれば「ヲヤ〳〵まアと云ながら/少(すこ)し/顏(かほ)
/赤(あか)くして/間(ま)を/悪(わる)そうに/一二枚明(いちにまいあけ)て見る/裡亦跡(うちまたあと)から/其処(そこ)へならべる
/三冊(さんさつ)もの《割書:甚|》「/是は/矢張吾妻雄兎子(あづまおとこ)の/作絵(さくゑ)は本所の/弟子(でし)で/御座(ござ)
ますが/師匠(しせう)さまよりもかへつて/能出来(よくでき)て/居(ゐ)/位(くらゐ)でございますト