東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 1

續英雄百人一首 - 翻刻

續英雄百人一首 - ページ 34

ページ: 34

翻刻

【右頁上段】 渡辺可性(わたなべかせい)も陶(すえ)尾張守の手にあ りて龍(りう)が馬場(ばば)の山に落(おち)のびかく れゐたりしが毛利勢声々(もうりせいこえ〴〵)に元(もと) 就(なり)公の仰(おほせ)なり大 将陶(しやうすえ)入道 殿(どの) を討(うち)しうへはほかの勢(せい)に恨(うらみ)なし 弓(ゆみ)の弦(つる)をはづし候はば一 命(めい)は 助(たす)くべし降参(かうさん)候へと高声(かうじやう)に 言(いひ)ければこの可性も出て擒(とりこ)と なりて引(ひか)れきたるに元就卿(もとなりけう)見(み) たまひて此ものは以前(いぜん)山口へ下りし をり度々(どゞ)出て狂歌など達者(たつしや) によみし者(もの)なり助(たすけ)おきたりとも何の 仇(あだ)をなすべきものにあらずと召出(めしいだ)し いかに可性日ごろ好(この)む歌(うた)一 首(しゆ)よむ べしよまば助(たすけ)んとありければ言下(ごんか)に 是(これ)をよむさまでの秀逸(しういつ)にはあら ねどよくいたしたりと則(すなはち)命(いのち)を助(たすけ) られたり是 風流(ふうりう)の徳(とく)なれば 英雄(えいゆう)にはあらねど書(かき)くはへぬ 【右頁下段】  渡辺可性(わたなべかせい) かけてしも  頼(たのむ)は もり  の しめ  だすき   命(いのち)一つに 二つまきして 【左頁上段】 宗阿弥(そうあみ)は陶(すえ)尾張守の同朋(どうほう) なり厳島(いつくしま)にかくれゐしが生捕(いけとら) れて引出されたり毛利 元就卿(もとなりけう) 見給ひてこの宗阿弥は大力の剛(かう)の 者(もの)なりされども斯(かく)やみやみと生捕(いけと) られしことよ後の禍(わざはひ)なるべし早(はや)く 誅(ちう)せよと宣(のたま)ひけるがさるにても 汝(なんじ)年来(ねんらい)勇(ゆう)を顕(あらは)しいま武名(ぶめい)の 朽(くち)なんこともいとはず自害(じがい)をもせ ず縲紲(るいせつ)にあふことよしからば命(いのち) のをしきには恥(はぢ)も思(おも)はずといふ心 を歌によめ汝(なんじ)も達者(たつしや)によみし ものなりと宣(のたま)へば宗阿弥 畏(かしこま)り て此 歌(うた)をよむ可性(かせい)が歌(うた)にはま さりたりと是(これ)も一命を助け放(はな) ち給ふ此二人 勇(ゆう)はあらねど元(もと) 就卿(なりけう)の仁心(じんしん)と人の心を和(やは)らぐ る歌の徳(とく)を感賞(かんしやう)して爰(こ々) にしるしぬ 【左頁下段】  宗阿弥(そうあみ) 名(な)ををしむ  人と いふ  と   も 身(み)を   惜(をし)む をし  さにかへて 名(な)をば惜(をし)まじ