翻刻
【右頁上段】
つるぎ太刀身に
とりそふるますらをぞ
恋のみだれの
もとにもありける
鬼神(おにかみ)もおそれおのゝく
くはがたのかぶとを
着(き)ける武者と
ならばや
かしこくもたねをつたゆる
よろひ草
風はふけども
身とそうごかね
ものゝふのやなみ
つくらふ小手のうへに
あられたばしる
なすのしのはら
【右頁下段】
あづさ弓
いるよりはやく
落(おつ)る瀬(せ)を八十
うぢ川と人はいふなり
ますらをのゆすゑふりたて
いづる矢をのち見ん
人はかたり
つくがに【注】
【注 この歌は万葉集(364番)「ますらをの 弓末ふりおこし 射つる矢を 後見ん人は 語り継ぐがね」を引いていると思われる。】
武士(ものゝふ)の母(はゝ)の衣(ころも)を
こひうけて
しなばかたみと
思ふのちの世
風きよくふきたち
まはすしら雲は
人をなびかふ
はたにぞありける
【左頁上段】
源頼義(みなもとのよりよし)は河内守/頼信(よりのぶ)の子にて勇(ゆう)
猛(もう)の大 将(せう)也/永承(えいせう)二年/奥州(おうしう)へ下向し
朝敵(てうてき)頼時(よりとき)を討取(うちとる)といへどもその子/貞(さだ)
任(たふ)勢(いきほ)ひ強大(けうだい)にして官軍(くわんぐん)戦利(せんり)を失(うしな)ひ
わづか七/騎(き)に打なされ敗軍(はいぐん)の中にも
義家(よしいえ)の射術(しやじゆつ)神(しん)のごとく白刃(はくじん)を冒(をか)
して重囲(てうゐ)を破(やぶ)る是に依(より)●各(おの〳〵)難(なん)を
まぬがるゝことを得(え)たり九ケ年/苦戦(くせん)
のうちに終(つい)に貞任(さだたふ)を討(うち)大軍を亡(ほろほ)
し左りの耳(みみ)を切(きり)都(みやこ)に携(たずさへ)埋(うつ)めて堂(どう)
を建(たつ)六條/防(ぼう)門(もん)の西洞院(にしのとういん)耳輪堂(にりんとう)
是也戦死/亡霊(ぼうれい)の為千/僧(そう)を供養(くよう)
し仏像(ぶつぞう)を安置(あんち)し伊豫守正四位
下に昇(のぼ)る勇(ゆう)のみか風月の才にも富(とみ)
ある時/難波(なには)の商人(あきひと)物売(ものうり)てかへるさに
〽あしもて帰(かへ)る難波津(なにはづ)のなみと
いひければ頼義/言下(げんか)に
〽みだれ藻(も)はすまひ【相撲】草(ぐさ)にぞ似(に)たりける
永保(えいほう)二年十一月三日/逝去(せいきょ)八十八才
【左頁下段】
伊豫守(いよのかみ)頼義(よりよし)
都(みやこ)には
花(はな)の名(な)ごりを
とめおきて つたふ
けふした芝(しば)に 白雪(しらゆき)