翻刻
夫(それ)我(わか) 邦(くに)の温泉(おんせん)は神代(かみよ)のむかし未(いまた)医薬(いやく)のはじ
まらざる時 万民(ばんみん)疾病(しつへい)夭折(ようせつ)の患(うれ)ひを救(すくわ)んがために
大已貴尊(をゝあなむちのみこと)宿奈彦那命(すくなひこなのみこと)と同しく諸国(しよこく)を巡行(しゆんこう)し
温泉を取立給ひしより已来(このかた)諸民(しよみん)病患(ひやうくわん)を平愈(へいゆ)す
ること得たり然りしより後上は 王侯(わうこう)より下(しも)庶人(しよじん)
に至(いたる)迄(まて)湯治(たうじ)すること今(いま)に盛(さかん)也(なり)抑(そも〳〵)温泉は天地(てんち)の妙(めう)
効(かう)にして人体(じんたい)肌膚(きふ)を膏沢(うるほ)し関節(くわんせつ)経絡(けいらく)を融通(ゆうつう)
して腹蔵(ふくそう)表裏(ひやうり)に貫徹(くわんてつ)するか故に其(その)症(しやう)に的中(てきちう)する
におゐては万病(まんひやう)を治すること医薬(いやく)の及ふ所に非(あら)ず
依_レ之湯治する人温泉を尊信(そんしん)せずんば有べからず
一 左(さ)に著(あらわ)す所(ところ)の諸国(しよこく)の温泉(おんせん)は唯(たゞ)養生(ようじやう)の為(ため)に
湯治(たうじ)する人(ひと)は勿論(もちろん)又(また)物参(ものまいり)遊山(ゆさん)なからに旅立(たびたち)
其(その)もより〳〵によつて湯治(たうじ)する人の為に国分(くにわけ)に
して見易(みやすき)やうに里数(りすう)を加(くわ)へ効験(かうけん)の大略(たいりやく)をあく
依(これに)_レ之(よつて)其(その)順路(じゆんろ)に随(したが)ひ此(この)書(しよ)に引(ひき)合て尋(たつね)求(もとむ)べし湯(ゆ)
の効能(かうのう)不案内(ふあんない)の場所(ばしよ)は其 土地(とち)の人に能(よく)聞(きゝ)合て
湯治すべし病症(ひやうしやう)によつて合(あふ)と不(あは)_レ合(ざる)とあることゆへ
ゆるかせにすべからず
一 湯治(たうじ)する人 其(その)温泉(おんせん)其(その)病症(ひやうしやう)にあふとあわぬとを
ためしみるには初(はじめ)一両度(いちにと)入(いり)て後(のち)胸(むね)腹(はら)すき食物(しよくもつ)