翻刻
【頭書・右丁】
出てもはじめのうちは
何事も慎(つゝし)み心いつ
ぱいに勤(つとむ)るゆゑに
主人も朋輩(はうばい)も心
よくもてはやすにつけて
そろ〳〵と口(くち)をきゝ出し
おなじ不奉公仲間(ふほうこうなかま)
のかげくちにのりて
あしさまに主人を罵(のゝし)り
つひにはおのれの
身のさまたげと成(なり)て
立身(りつしん)出世する事
なし最初(さいしよ)の願(ねが)ひ
には何とぞよく奉公
して衣類(いるい)をも拵(こしら)へ
【頭書・左丁】
出世もせんと思ひし
ことなればその出世を
するやうにつとむべき
はずを不奉公(ふほうこう)するは
はじめの望(のぞみ)をわすれ
たるなりこゝをもつて
只(たゞ)人は発端(ほつたん)の志(こゝろざし)を
ひるがへさずして一図(いちづ)に
まもるべきことなり歌に
山だしのこゝろを
もちてつとめなば
つひには主(しう)に
めぐまれぞせん
右 姑(しうとめ)と娵(よめ)と下女(げぢよ)と
三ツの品はありといへ共
みな是そのこゝろより
【本文・右丁】
御 鼻紙(はなかみ)一 束(そく)御まな一折
わざと御 祝(いは)ひ上まいらせ候
こなた事も御 悦(よろこひ)御 暇乞(いとまごひ)ながら
まいり申度候得共御 存知(ぞんぢ)の
取込(とりこみ)にて御 無沙汰(ぶさた)いたし
【本文・右丁】
まいらせ候 宜敷(よろしく)御 伝上(つたへあげ)られ
下さるべく候めで度かしく
○移徙(わたまし)を祝(いは)ふ文
返す〳〵福(ふく)兵衛事もさつそく
けふしは御 日柄(ひがら)もよろしく
御よろこひに上り申へきところ
そなたへ御 移(うつ)りなされ候よし