翻刻
石火矢台?所々にかまへ大堀有り橋有り高
石垣は数里に築廻して堅固なる要害也
主人ゟ呉服の御用として毎度納め来り我
も度々城下に登り去程に孫七思ひけるは此
所に来り六年の春秋を暮しけるにさのみ
苦みもなく不自由も無く年を送りけれど
古郷の恋しきことは起ても寝ても忘れがた
くでつく〴〵はかり事を思ひ出しけり此国の
人父母兄に孝行成事上なけれは我母には
産捨て死わかれ父には十五歳にて離れ兄独
りを父とも母とも頼つれは二タ親有りと兼而
語りけれは弥此ことをはからばやと先主人の?
母親に語りける様は我数年度に来り御
憐に預り安楽世界と存し此上や候はじ然
共我国には二親有て我行末をあんじ
苦のしたにもや成侍らん事の悲しさ一ト度
日の本に渡り親共の命あらん内に逢ひ
まみへ度由泪を流して語りけれは老母も