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事も候へば。生前(せうぜん)に一目(ひとめ)逢(あは)しめ給へ。然(しから)ば甘心(とくしん)して快(こゝろよ)く自害(じがい)し候べしと言(いひ)ければ。為空(ゐくう)が
曰。你(なんじ)清真(せいしん)に逢(あひ)て助命(じよめい)を乞(こは)んため対面(たいめん)を望(のぞ)むなるべけれども。清真といへども我們(われら)
と同意(どうゐ)なれば敢(あへ)て你(なんじ)を助(たすく)べからず。然(しかれ)ども日来(ひごろの)好染(よしみ)に対面(たいめん)は許(ゆる)し得(え)さすべし
とて覚浄(かくじやう)とともに玄吾(げんご)を緊(きびし)く縛(しば)り。然(しかふ)して覚浄に清真(せいしん)を呼来(よびきたら)しむるに。間(ま)も
なく覚浄(かくじやう)清真(せいしん)を同道(どふ〴〵)してかへり来(きた)りける偖(さて)清真(せいしん)は玄吾(げんご)が縛(しば)られたるを見て駭(おどろ)き
ながら。玄吾(げんご)に向(むか)ひ你(なんじ)我(わ)が留守(るす)を守(まも)らず妄(みだり)に外出(ぐわいしゆつ)して我徒(われ〳〵)が隠所(かくしところ)を見しは你(なんじ)が不覚(ふかく)
なり。年来(としごろ)信(まめ)やかに勤(つとめ)し你(なんじ)ながら。此(この)一 条(でう)のみは見遁(みのが)しがたし。是(これ)全(まつた)く你(なんじ)が前生(ぜんせう)の悪業(あくがう)
爰(こゝ)に報(むく)ひしなり。然(され)ども暫(しばら)くにても主従(しゆふ〴〵)となりし好染(よしみ)を以(もつ)て逼(せま)り殺(ころ)す事は免(ゆる)し
得(え)さすべし。只(たゞ)此(この)三品(みしな)を何(いづ)れなりとも欲(ほつ)する品(しな)を用(もち)ひて自殺(じさつ)せよ亡骸(なきから)は我(われ)埋葬(まいそう)し
懇(ねんごろ)に跡(あと)を弔(とふら)【吊は俗字】ひ得(え)さすべしと言聞(いひきか)せ。偖(さて)為空(ゐくう)覚浄(かくじやう)に向(むか)ひ。我徒(われ〳〵)三人が手(て)にて渠(きやつ)一人
を逼(せま)り殺(ころ)さんは安(やす)けれども。流石(さすが)此(この)年月(としつき)召使(めしつかひ)し者なれば。手(て)を下(くだ)すに不忍(しのびす)。此(この)室(しつ)に