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けるが忽然(こつぜん)として端厳(たんごん)微妙(みめう)の法相(ほふさう)と化(け)し。予(われ)は是(これ)文珠菩薩(もんじゆぼさつ)なりと宣(のたま)ふ御
声(こゑ)もろともに虚空(こくう)に上(あが)らせ給ひけり。是等(これら)の奇特(きとく)を首(はじめ)として百般(さま〴〵)の不思議(ふしぎ)を
現(あらは)し給ふ事 限(かぎり)なかりければ。唐朝(とうてう)の君臣(くんしん)及(およ)び下々(しも〴〵)の万民(ばんみん)まで活仏(いきぼとけ)の如(ごと)く尊(たつと)びけり
空海師(くうかいし)帰朝(きてう)《振り仮名:鎮_二難風_一|なんふうをしづむ》 投筆(なげふで)并(ならびに)《振り仮名:隔_レ溪書_レ額|たにをへだてゝがくをしよす》条
去程(さるほど)に空海和尚(くうかいおしやう)は慧果(けいくわ)不空(ふくう)両知識(りやうちしき)及(およ)び唐土(とうど)の名僧(めいそう)に悉(こと〴〵)く謁見(えつけん)して求法(ぐほふ)
残(のこ)る所(ところ)なく学究(まなびきは)め。在唐(ざいとう)已(すで)に三年におよびければ。今は帰朝(きてう)せんと思(おも)はれける折柄(をりがら)
学士(がくし)橘逸成(たちばなのはやなり)も勤学(きんがく)畢(おは)り帰朝(きてう)せんと申されけるゆへ。幸(さいはひ)の船連(ふなつれ)よとて唐帝(とうてい)に
帰国(きこく)の義(ぎ)を願(ねが)ひ其比(そのころ)倭国(わこく)の使者(ししや)高階真人(たかしなまびと)の船(ふね)唐土(とうど)へ来(きた)りければ空海(くうかい)
逸成(はやなり)其船(そのふね)に便船(びんせん)を乞(こひ)。遂(つひ)に唐(とう)の元和(げんわ)元年(ぐわんねん)《割書:本朝 大(だい)|同(どう)元年》八月 上旬(じやうじゆん)に纜(ともづな)を解(とい)
て出帆(しゆつはん)し。順風(じゆんふう)に任(まか)して船(ふね)を走(はしら)せける程(ほど)に。其(その)疾(はや)き事 矢(や)を射(いる)がごとく三四日の
間(うち)に数百里(すひやくり)を過(すぎ)ける所(ところ)に。忽(たちま)ち日和(ひより)変(かは)り東南(とうなん)の空(そら)に一朶(いちだ)の黒雲(くろくも)起(おこ)るよと見