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を㵎(たに)へ吹(ふき)落(おと)さんとするにぞ。母公(ぼこう)は落(おと)されじと側(かたへ)の巌(いはほ)の尖(とがり)を両手(りようて)にとらへて踏止(ふみとま)り給ふ
に一 念力(ねんりき)のなす処(ところ)にや思(おも)はず岩(いは)の尖(とがり)を捻(ねぢ)られけり。今も存(そん)して捻岩(ねぢいは)と称(しやう)するは是(これ)なり
かゝる天変(てんべん)にも母公(ぼこう)猶(なを)登山(とうざん)せんとの念(ねん)止(やま)ず却(かへつ)て心中(しんちう)に嗔(いかり)を生(せう)じ。たとひ此身(このみ)は微塵(みぢん)
になるとも登山(とうざん)せでは止(やま)じと悪風(あくふう)雷雨(らいう)にも屈(くつ)せず。衣服(いふく)は寸々(ずん〴〵)に裂(さけ)破(やぶ)れ。白髪(はくはつ)散々(さん〴〵)に
打乱(うちみだれ)ながら下折(したをれ)の枝(えだ)を杖(つえ)とし。身命(しんめう)を拋(なげう)つて登(のぼ)られけるに。不思議(ふしぎ)や忽(たちま)ち降(ふり)しぶく雨(あめ)は
火焔(くわえん)となり面(おもて)を向(むく)べきやうもなければ。さしもの母公(ぼこう)も惘果(あきれはて)【旁の岡は誤】あはや火雨(ひのあめ)の為(ため)に焼(やき)殺(ころ)され
んとし給ふ所(ところ)に。空海和尚(くうかいおせう)走来(はせきた)り給ひて。路(みち)の側(かたへ)なる大 盤石(ばんじやく)を片手(かたて)にて押上(おしあげ)母公(はゝご)を
巌(いはほ)の下(した)へ押入(おしいれ)給へば母公(ぼこう)は其儘(そのまゝ)悶絶(もんぜつ)し給ひけり。花坂(はなざか)に名高(なだか)き押上岩(おしあげいは)是(これ)なり。空海(くうかい)
和尚(おせう)は母公(はゝご)の絶死(ぜつし)を御覧(ごらん)じ口中(くちのうち)に真言(しんごん)の秘文(ひもん)を唱(となへ)給へば頓(とみ)に風雨(ふうう)雷電(らいでん)収(おさま)り
母公(ぼこう)は息(いき)を吹返(ふきかへ)し。四辺(あたり)を見廻(みまは)し空海和尚(くうかいおせう)の御 皃(かほ)を見 上(あげ)給ひて。掌(たなごゝろ)を合(あは)し伏(ふし)拝(おがみ)給ひ
妾(わらは)五 障(しやう)の罪(つみ)深(ふか)き身(み)を顧(かへりみ)ず。愛着(あいぢやく)の絆(きづな)に曳(ひか)れ霊場(れいぢよう)を強(しい)て穢(けがさ)んとし。已(すで)に