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翻刻
又 世上(せじやう)に篁(たかむら)の歌字(うたじ)尽(づくし)といへる書(しよ)あるは子子子(ねこのこの)子子子(こねこ)と訓(よみ)しに思(おもひ)寄(よせ)て後人(こうじん)の
偽作(ぎさく)せし物(もの)なるべし。篁(たかむら)の作(さく)とは思(おも)はれぬ俗字(ぞくじ)多(おほ)し。然(しかれ)ども是(これ)また容易(ようい)の案(あん)に
あらず。日本地理志(につほんちりし)に曰。小野篁(をのゝたかむら)下野国(しもつけのくに)の任(にん)を蒙(かふむ)りて下(くだ)り住(ぢう)せし比(ころ)足利郷(あしかゞのさと)にて
国人(くにんど)に書経(しよけい)を教授(きやうじゆ)し孔子(かうし)の像(ぞう)を祭(まつり)しと。今の足利(あしかゞ)の学校(がくかう)は篁(たかむら)住居(ぢうきよ)の地(ち)なり
とぞ。又 文徳実録(もんとくじつろく)に篁(たかむら)は親(おや)に孝心(かうしん)深(ふか)かりし由(よし)を審(つまびらか)に載(のせ)たり。篁(たかむら)身材(みのたけ)六尺二
寸 弓馬(きうば)の道(みち)も暗(くら)からず頗(すこぶ)る勇敢(ゆうかん)の人にて。其(その)家(いへ)貧(まづ)しけれども栄利(えいり)を求(もと)めず
朝廷(てうてい)より金銀(きん〴〵)米穀(べいこく)を給(たま)はる時(とき)は親族(しんぞく)朋友(ほうゆう)の貧(まづし)き者(もの)に分(わか)ち与(あた)へ自己(みづから)清貧(せいひん)を楽(たのし)
み文章(ぶんしやう)詩歌(しいか)に懐(おもひ)を述(のべ)ぬ。誠(まこと)に吾朝(わがてう)の名士(めいし)儒臣(じゆしん)の最(さい)第(だい)一ともいふべき人傑(じんけつ)なり
しに惜(をしい)かな耳順(にじゆん)の齢(よはひ)をも待(また)ず逝去(せいきよ)せられし事 吁(あゝ)それ天(てん)か命(めい)か
伊勢斎宮(いせのさいぐう)及(および)《振り仮名:建_二野々宮_一|のゝみやをたつる》 恒貞親王(つねさだしんわう)隠謀(いんばう)露顕(ろけんの)条(こと)
却説(かへつてとく)承和(しやうわ)元年八月 皇女(くわうによ)久子内親王(ひさこないしんわう)を以(もつ)て伊勢(いせ)の斎宮(さいぐう)に立(たて)玉ふべきよし勅詔(ちよくぜう)あり