Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

- 翻刻

 - ページ 336

ページ: 336

翻刻

の声(こゑ)を聞ていよ〳〵勇気(ゆうき)を増(まし)名虎(などら)が下手(したて)に入(いつ)て押立々々(おしたて〳〵)と犢鼻褌(とくびこん)に両手(もろて)をかく るぞと見る間(ま)もなく曳(ゑい)やと言(いひ)さまはづみを打(うつ)て倒(どう)ど投付(なげつけ)ければさしもの名虎(などら)其儘(そのまゝ) 血(ち)を吐(はい)て起(おき)も得(え)上(あが)らず仆伏(たほれふし)ける。是(これ)を見て堂上(どうせう)堂下(どうか)に群(むらが)りし雑人(ぞうにん)にいたる迄(まで) 仕(し)たりや〳〵と誉(ほむ)る声(こゑ)四竟(しけう)に響(ひゞ)きて少時(しばし)は鳴(なり)も止(やま)ざりけり。立合(たちあはせ)の宦人(くわんにん)は持(もち)たる 幣(へい)を善雄(よしを)に授(さづけ)ければ。善雄(よしを)は幣(へい)を受(うけ)て推頂(おしいたゞ)き。欣然(きんぜん)として玉座(ぎよくざ)に向(むか)ひ拝(はい)をなし て旧(もと)の掾座(えんざ)へかへり。宦人(くわんにん)們(ら)は四五人 立(たち)かゝりて名虎(などら)を扶(たす)け起(おこ)し。幕(まく)の内(うち)へ連行(つれゆき)輿(こし)に 乗(のせ)て其儘(そのまま)館(やかた)へ送(おく)りけるが。三日 許(ばかり)病牀(びやうせう)に病臥(やみふし)只(たゞ)無念(むねん)や朽惜(くちをし)やと詈(のゝし)り叫(さけび)【叶は誤】 て終(つひ)に空(むな)しく成(なり)にける。朝廷(てうてい)には四の宮(みや)勝負(しやうぶ)に勝(かち)給へばとて維仁親王(これひとしんわう)へ立太子(りつたいし)の 宣旨(せんじ)を下(くだ)され。維高親王(これたかしんわう)は十二月二日 君(きみ)の御 前(ぜん)にて御 元服(げんぶく)あり。理髪(りはつ)は中納言(ちうなごん) 長良(ながよし)加冠(かくわん)は左大臣(さだいじん)信公(のぶみこう)なり。斯(かく)て其(その)翌年(よくねん)天安(てんあん)二年八月 帝(みかど)御悩(ごのふ)頻(しきり)にて遂(つひ) に崩御(ほうぎよ)なし給ひければ。皇后(かうぐう)宮方(みやがた)公卿(こうけい)諸宦人(しよくわんにん)に至(いた)るまで深(ふか)き歎(なげき)に沈(しづ)みながら