Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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ページ: 335

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善雄(よしを)早(はや)く身(み)を捻(ひね)りて抜(ぬけ)名虎(なとら)が背(うしろ)へ廻(まは)り双腕(もろうで)の力(ちから)を究(きはめ)て突倒(つきたほ)さんと押立(おしたて) けれども。名虎(などら)は地(ち)より生抜(はへぬき)たる大 盤石(ばんじやく)のごとく一寸も動(うご)かず。大手(おほで)を背(せ)へ廻(まは)して 善雄(よしを)が首筋(くびすじ)を鷲掴(わしつかみ)にし我前(わがまへ)へ曳廻(ひきまは)し金剛力(こんがうりき)を出(いだ)し肩骨(かたぼね)を抓(つか)み拉(ひしが)んと す。されども善雄(よしを)は抜群(ばつぐん)の角力(すまふ)の達人(たつじん)なれば。大木(たいぼく)に藤(ふぢ)の捲付(まきつき)しごとく取付(とりつい)て 内(うち)がらみ。外(そと)がらみ。大渡繫(おほわたりがけ)。小渡繫(こわたりかけ)。左手(ゆんで)に廻(まは)り右手(めて)に廻(めぐ)り。或(あるひ)は離(はな)れあるひは寄(よせ) 虚々(きよ〳〵)実々(じつ〳〵)の妙手(めうしゆ)を尽(つく)して繰(あやど)りける是(これ)や昔(むかし)より角力(すまふ)の上手(じやうず)と名(な)に高(たか)き品治(ほんぢ)の 北男(きたを)。佐伯希雄(さいきまれを)。紀(き)の勝岡(かつおか)なんども。善雄(よしを)が早業(はやわざ)には争(いかで)か勝(まさ)るべきと。諸人(しんにん)感(かん) 嘆(たん)し弥(いよ〳〵)目(め)を離(はな)さず片唾(かたづ)を呑(のん)で見るうちに。名虎(などら)は善雄(よしを)が為(ため)に繰(あやどら)れて大い に精力(せいりき)を労(つから)し勢(いきほ)ひ稍(やゝ)衰(おとろ)へ息(いき)づかひ早鐘(はやがね)を撞(つく)が如(ごと)くなりける所(ところ)に忽(たちま)ち艮(うしとら)の 方(かた)より。彼(かの)大威徳明王(だいいとくめうわう)の水牛(すいぎう)の吼(ほゆ)る声(こゑ)聞(きこ)えて。名虎(などら)が耳(みゝ)に入とひとしく俄(にはか)に放(ほう) 心(しん)せしごとく忙然(ぼうぜん)として我(われ)を忘(わす)れ双腕(もろうで)も痺(しび)れるごとくぞ覚(おぼへ)ける。善雄(よしを)はまた水牛(すいぎう)