← 前のページ
ページ 48 / 521
次のページ →
翻刻
死(じに)も多(おほ)く戦(たゝか)ひ疲(つかれ)て候へば合戦(かせん)は是迄(これまで)にして軍(いくさ)を収(おさ)め給へ強(あなが)ち今日(けふ)に限(かぎ)る戦(たか)ひにて
も候まじ。夜に入(いり)なば敵(てき)は地理(ちのり)に精(くは)しければ。恐(おそ)らくは退口(のきぐち)難義(なんぎ)に候べしと言(いひ)ければ継(つぐ)
縄(なは)勃然(ぼつぜん)として大いに怒(いか)り。是(こ)は臆病(おくびやう)未煉(みれん)なる申され条(でう)かな。合戦(かせん)は已(すで)に味方(みかた)の勝色(かちいろ)
なり今(いま)賊軍(ぞくぐん)の疲(つかれ)を伐(うた)ずんば。何日(いつ)か勝利(しやうり)を得(う)る期(とき)あらん。卑怯(ひけう)の挙止(ふるまひ)なせられ
そと叱(しか)り恥(はづか)【耻は俗字】しめけるにぞ。益立(ましだち)赤面(せきめん)して口(くち)の裡(うち)につぶやき。戦場(せんぢよう)へも向(むか)はず鈍々(おめ〳〵)玉造(たまつくり)へ
ぞ引取(ひきとり)ける。此時(このとき)賊方(ぞくがた)は大軍(たいぐん)の京勢(きやうぜい)に■(あぐ)【䜑ヵ】み已(すで)に敗色(まけいろ)見えけるに。益立(ましだち)が手勢(てぜい)は主将(しゆせう)
の見えざるに周障(しうせう)し。主人(しゆじん)は如何(いかに)。もし戦死(うちじに)したまひしに非(あらざ)るかと。敵(てき)に向(むか)はんともせず
騒立(さわぎたち)ける呰麻呂(しまろ)胆沢(いざは)栗原(くりばら)以下(いげ)是(これ)を見るより味方(みかた)を励(はげま)し須波(すは)敵(てき)は引色(ひきいろ)なる
ぞ此(この)機(き)を㢮(ゆるべ)ず伐(うて)やと呼(よば)はり。宗徒(むねと)の者(もの)ども真先(まつさき)に立(たつ)て。狼狽(うろたゆ)る大伴(おほとも)が勢(せい)を落花(らくくは)
微塵(みぢん)に打立(うちたて)ければ戦(たゝか)ひ疲(つか)れし賊兵(ぞくへい)是(これ)に機(き)を整(なを)して勢(いきほ)ひを生(せう)じ倶(とも)に敵(てき)を追捲(おひまく)る
にぞ。益立(ましだち)が手(て)の者(もの)いよ〳〵騒(さは)ぎ乱(みだ)れ散々(さん〴〵)に敗走(はいそう)し我先(われさき)にと川を逃渡(にげわた)りけり是(これ)に