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聞えある僧綱(そうかう)に法華経(ほけきやう)を読誦(どくじゆ)させ。神宦(しんくわん)に祝詞(のつと)を上させなんどし。百般(さま〴〵)にして除(のぞか)んと
すれども蛇(へび)は退(しりぞ)かず。尽(じん)七日の頃(ころ)には長(たけ)一 丈(じやう)余(よ)太(ふと)き事 大竹(おほだけ)にも増(まさり)紅井(くれなゐ)の舌(した)長(なが)く閃(ひらめ)かして諸(しよ)
人を見けるにぞ。怕(おそれ)ずといふ者(もの)なし。今は百計(ひやくけい)尽(つき)て塚(つか)の上に一箇(ひとつ)の社(やしろ)を建(たて)。よしや彼(かの)蛇(へび)来(きたる)
とも此社(このやしろ)の内(うち)へ入ずんば霊位(れいゐ)汚(けがれ)じとて緊(きびし)く鎖(とざ)し固(かため)ける。今の世(よ)塚(つか)に卵塔(らんとふ)を立(たつ)るは是(これ)
より始(はじま)りしとかや。斯(かく)ても廟参(べうさん)【庿は古字】の毎度(たびごと)に蛇(へび)は塚上(つかのうへ)に在(あり)けるゆへ。男子(なんし)とといへども後々(のち〳〵)は怕(おそれ)
て参詣(さんけい)する人も無(なか)りけり。去程(さるほど)に延喜(えんぎ)十年にも成(なり)けるに。其年(そのとし)の春(はる)大納言(だいなごん)源光(みなもとのひかる)悪瘡【左ルビ:あくさう】
を患(やみ)て。医療(いりよう)手(て)を尽(つく)せども不治(ぢせず)。果(はて)は面部(めんぶ)四肢(てあし)腐爛(ふらん)して遂(つひ)に逝去(せいきよ)せられけり。又 其次(そのつぎ)
の年(とし)和泉大将(いづみのだいしやう)定国(さだくに)俄(にはか)に発狂(ものぐるは)しくなり。自己(みづから)太刀(たち)を抜(ぬい)て我身(わがみ)を突串(つきつらぬき)て狂死(くるひじに)し
藤原菅根(ふぢはらすがね)は菅霊(かんれい)の祟(たゝり)【崇は誤】を怕(おそ)れ身(み)の無事(なきこと)を祈(いのら)んと馬(うま)に駕(のり)て賀茂(かも)へ社参(しやさん)し
けるに途中(とちう)にて乗馬(じやうめ)狂(くる)ひ刎(はね)けるゆへ。菅根(すがね)鞍(くら)に堪(こらへ)得(え)ず横(よこ)さまに落馬(らくば)し馬(うま)の為(ため)
に踏殺(ふみころ)されけり。箇様(かやう)に菅公(かんこう)を讒言(ざんげん)せし人々 悉(こと〴〵)く変死(へんし)しけるゆへ。天の罰(ばつ)する