翻刻
能大蔵徳兵衛といへる。各高き老圃あり。豊稼録再種方な登
いへる農書を多く作り。世尓問ひし者なり。先達而余江戸尓て
出合し事あ里し時。救荒の事尋ねし尓。凶年の食物盤。葛尓
志くものなしと亭。その著述の製葛録といふ書を出して見
せり。その書葛の採り様より。制法尓至るまで。精しく挙たり。
尤葛布を造ること越第一登いへど。食物尓することもあり。既尓刊
行の書な連はこゝ尓盤挙須。〇/橘南谿(きつなんけい)が西遊記續篇尓曰。近年
打徒々き五穀凶作なりし上。天明二年寅の秋盤。四国九州の島
境。飢饉して。人民の難渋いふはかりなし。余などか旅行も。道路
盗賊の恐連ありて。冬深き頃なと盤。所々逗留して用心せり。さて
春尓なりても。諸国とも米穀ま須〳〵高直尓なり。余なと途中白
米一升を大かた百四十文ばかりを出して求たり。国々城下までも。
多くは麦飯粟飯琉球芋大根飯の類を食し取つゞき重り。村々
在々盤かず年といひて。葛の根を山尓入りて堀食ひしか。是も暫くの
間尓皆不りつくし。金槌といふものを不りて食せり。是も春くな
く成りぬ連ば。すみらといふもの越不りて。其根越食せり。葛の根
金槌の類盤。其根をつきくだき。水尓さらし。夫越だんご尓作り
て。塩煮尓して食せり。春のころ尓いたりて盤。塩もけしから須
高直尓成しかは。これをも求めら年て。海辺尓出て潮を汲来り
て、其潮尓て右の金槌団子を煮て食須。すみらといふもの盤。